こんにちは。「ジャーロ」編集部の見習い編集者、黒猫のアランです。編集長の指示を受け、毎号の新連載小説や小説特集でぼくが「ここだ!」と思う読みどころを押し売り的に紹介します。“押しのポイント”ですからね。いや、させてください! お願いします! ミステリー修行中の身ですが、肉球もつぶれろとばかりにプッシュプッシュでお薦めしまくります!
最新号~Vol.93
最新号寒い日はぬくぬくの部屋でミステリーを♪
vol.96食欲の秋もいいけれど、やっぱり読書の秋ですね!
vol.95猛暑はつらいよ……冷房の効いた部屋で謎解きリフレッシュしたいです♪
vol.94じめじめした季節がやってくる前に、すっきり謎解きしましょう♪
Vol.93春満開♪ 桜の木の下に埋まっているのは、どんなミステリー?
Vol.92~Vol.88
Vol.92新しい年はミステリーでお祝い。こたつの中が定位置です♪
Vol.91積読ミステリーで年越し準備。「ジャーロ」最新号は京極夏彦氏が登場!
Vol.90暑さが落ち着き、食欲の秋到来! お腹いっぱいミステリーはいかが?
Vol.8935℃の猛暑に夏バテ中のぼくですが……「ジャーロ」最新号ははじけてます!
Vol.88豪華新連載が2本スタート! 夏先取りの「ジャーロ」最新号
Vol.87~Vol.83
Vol.87ミステリーの花咲き誇る、「ジャーロ」春の最新号!
Vol.86「ジャーロ」最新号は、真冬の炬燵の暖かさにも負けない魅力がたっぷり詰まっています!
Vol.85「ジャーロ」最新号は、静電気ならぬ、熱い火花をバチバチ散らすミステリー作品の競演が!
Vol.84温もりが恋しい季節到来! 夜長のお供は、熱い「ジャーロ」最新号を!
Vol.83既に夏バテ気味のぼくですが、「ジャーロ」最新号は元気いっぱいの内容です!
Vol.82~Vol.78
Vol.82梅雨前の気持ちいい晴れ間。「ジャーロ」最新号も凱風快晴の内容です!
Vol.81桜開花! 「ジャーロ」最新号も内容満開でお届けします!
Vol.80「ジャーロ」は今号よりリニューアル。そして「無料お試し版」を始めます!
Vol.79暖房の心地よさを再確認。冬こそ暖かい部屋でミステリー!
Vol.78風の中に秋の気配。ミステリーの季節がやってきました!
Vol.77~Vol.73
Vol.77今号も、蒸し暑さを忘れさせる熱い作品が満載!
Vol.76隔月刊化第3弾も充実の1冊。新連載とスペシャル・ゲストに注目です!
Vol.75隔月刊化第2弾もますます盛り上がってます!
Vol.742021年、「ジャーロ」は隔月刊になります!
Vol.73朱川湊人〈知らぬ火文庫〉「泡沫草子」
Vol.72~Vol.68
Vol.72
Vol.71宮部みゆき〈女神の苦笑〉「秘密兵器」
石持浅海〈座間味くんの推理〉「新しい世界へ」
Vol.70青柳碧人「スカイツリーの花嫁花婿」第1回
前川 裕「クリーピー・ゲイズ」第1回
Vol.69
Vol.68宮部みゆき〈女神の苦笑〉「ともだちつながり」
Vol.67~Vol.63
Vol.67東川篤哉〈烏賊川市シリーズ〉「スクイッド荘の殺人」第1回
Vol.66近藤史恵〈元警察犬シャルロット〉「シャルロットと迷子の王子(前編)」
大崎 梢〈岸辺のあとさき〉「願いごとツユクサ」
澤村伊智「死神」
Vol.65西澤保彦〈エミールと探偵たち白書〉「ライフ・コズメティック」
曽根圭介「成敗」
芦辺 拓〈幻燈小劇場〉「おじさんと欧亜連絡国際列車」
Vol.64青柳碧人〈二人の推理は夢見がち 2〉「未来を、11秒だけ」
北原真理「きょ~わ国から来た男」
阿津川辰海「六人の熱狂する日本人」
Vol.63宮部みゆき〈女神の苦笑〉「映画館の妖精」
前川 裕〈犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル〉「あなたと一緒に踊りたいの!」
柄刀 一〈南美希風・国名シリーズ〉「或るエジプト十字架の謎」
鳥飼否宇〈ディザスター・シリーズ〉「善人なおもて往生をとぐ」
大山誠一郎「暗黒室の殺人」
曽根圭介「父の手法」
澤村伊智「宮本くんの手」
Vol.62〜Vol.58
Vol.62芦辺 拓〈幻燈小劇場〉「おじさんのトランク」
森川智喜「そのナイフでは殺せない」
早坂 吝「殺人犯 対 殺人鬼」
Vol.61坂木 司〈和菓子のアン〉「甘い世界(前編)」
鯨統一郎〈銀幕のメッセージ〉「帝国のゴジラ」
Vol.60宮部みゆき〈女神の苦笑〉「虹」
笠井 潔「屍たちの昏い宴」
前川 裕〈犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル〉「言わなくても分かっている」
Vol.59西澤保彦〈エミールと探偵たち白書〉「アリバイのワイン」
天祢 涼〈巫女の推理に御利益あり〉「境内ではお静かに」
青柳碧人「二人の推理は夢見がち となりの人間国宝」
Vol.58鳥飼否宇〈隠蔽人類〉「隠蔽人類の発見と殺人」
森 晶麿〈飛んで火に入る三人〉「ロウソク邸とむらさきの火」
井上雅彦〈珈琲城のキネマと事件〉「狼が殺した」
※画面下の番号リンクから目次の回に切り替えることが出来ます
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こんにちは。アランです。
「ん? アランなんだかシルエットが変わったような?」。編集部をトコトコ歩いていたら先輩からそんなご指摘を受けました。……いえいえ、太ったわけじゃありません。冬毛でふわふわになっちゃってるだけですから〜!
それでは、そんな冬毛を振り乱しながらぼくもお手伝いして完成した、ジャーロ97号のラインナップをご紹介いたしますね。
今号から二作の新連載が始まりました! まずは坂木司氏の〈和菓子のアン〉待望の新シリーズがスタートです。前シーズンでみつ屋の正社員となったアンちゃんに、新たな出会いと別れがやってきます。もう一作は青柳碧人氏の連作短編〈80分間世界一周〉です。都立高校の秘密の地下室に部室を構えるのは、世にも奇妙な「世界一周部」。瞬間移動を可能にする不思議なスマートウォッチを使った80分限定の冒険をお楽しみください。
読み切り短編も充実の三本。東川篤哉氏の「李下に冠を正せ」はぶどう園を舞台にした死体遺棄事件。大人気〈烏賊川市〉シリーズの久しぶりの短編です。方丈貴恵氏の「ようこそ殺し屋コンペへ」は犯罪者御用達の〈アミュレット・ホテル〉シリーズ最新作。今回は殺し屋コンペなる最悪のイベントがホテル内で開催されます。ド派手なアクションあり、本格謎解きありは著者の真骨頂! 倉知淳氏の「火炎竜」は94号に続いて、著者の隠れた人気シリーズである〈占い師はお昼寝中〉の新作です。ぐうたらインチキ占い師のもとを訪れたのは霊障に悩む判子屋。今回も安楽椅子探偵の推理が冴えわたります。
企画では、ジャーロでの連載が単行本化されたのを記念して、盟友同士、二組の対談を実施。隔号で読み切り短編を寄稿していた浅倉秋成氏と岩井圭也氏の初対談は必見。プライベートでも親交のあるお二人がふざけあいながらも、初めてお互いの作品について真剣に語っています。また、骨太の評論連載をしていた書評家の杉江松恋氏と千街晶之氏の対談も見逃せません!
さらに、著者と担当編集者が話題の本の裏側を語り合う「アフタートーク」には染井為人氏が登場。映画化が話題の『正体』について思い出を語ってくれました。
今号も楽しいミステリー企画が満載。どうぞお楽しみください!
最新97号も無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」をお読みいただけます。
「ジャーロ dash」ではエッセイや評論、マンガ、書評などを、無料で読むことができます。さらに、長編連載、連作短編、読み切り短編の小説も、冒頭部分を試し読みできます!
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こんにちは。アランです。
やっと来ましたね、この季節が! そうです、ぼくの愛するサンマの季節です。
「今、サンマが豊漁らしいよ」と聞いて夏の終わりからウキウキ。さっそく1匹ペロリといただきました。が、なんでも今年は秋本番の漁獲量が少ないかもしれないんだとか。価格が高騰する前にたくさん食べなくちゃ!
そんなTHE〝食欲の秋〟なぼくですが、ジャーロ編集部の一員としてもちろん〝読書の秋〟も堪能しておりますよ。それでは、ジャーロ96号のラインナップをご紹介させていただきます。
今号も注目の新連載がスタートしました。みなさんお待ちかねの、近藤史恵氏の〈元警察犬シャルロット〉シリーズが帰ってきましたよ! 警察犬を引退して池上家の一員となったシャルロットが、その能力を生かして街の事件を解決する人気シリーズ。今回は職場の後輩の悩み相談が発端となります。コージーミステリーの名手による〝日常の謎〟をどうぞお楽しみください。
読み切り短編も充実の二本。おぎぬまX氏は92号に続いて再び、治験アルバイト・ミステリーで登場。今作の「悪夢と偽薬」は、治験会場で再会した北城と香西が、毎晩悪夢にうなされる参加者の謎に迫ります。ご自身の経験に裏打ちされた治験あるあるが魅力的な作品です。
もう一つの読み切り短編、織守きょうや氏の「五人目の呪術師」は、アフリカの未開の地に商談で訪れた日本のビジネスマンの身に起こった不可思議な現象。ホラーの名手が描く未知の世界に背筋が寒くなります……。
著者と担当編集者が話題の本の裏側を語り合う「アフタートーク」には浅倉秋成氏が登場です。ブレイク前から浅倉氏を知る担当編集者と一緒に、大ヒット作『六人の噓つきな大学生』の誕生秘話から最新作『家族解散まで千キロメートル』までを振り返ってくれました。
今号も楽しいミステリー企画が満載です。秋の夜長にどうぞお楽しみください。
最新96号も無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」をお読みいただけます。
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こんにちは。アランです。
大嫌いな梅雨が一瞬で明けたのはありがたいんですが、いや~、暑すぎますね~。ニュースで「猛暑日」というワードを聞くたびにクラクラしてきます。猫の体温は人間のみなさんよりはわずかに高いんですが、それでも体温並みまで気温が上がる日もあって、夏バテを通りこして夏倒れしてしまいそうです。
さて、そんな蒸し暑い日々ですが、「ジャーロ」最新号は爽快な企画でにぎわっています!
今号はフレッシュな新連載長編が2本。岩井圭也氏の「あしたの肖像」は都内の美大を舞台にした青春ストーリーです。岩井氏は、以前「ジャーロ」に掲載された短編「堕ちる」(単行本『暗い引力』収録)でも美術館の学芸員を主人公に異色の画家の謎に迫るミステリーを書かれていますが、じつは美術館巡りを趣味とする大のアート好き作家さんなんです。今作ではライフワークともいえる美術アートを題材にするべく、いろいろな取材も敢行し満を持して挑む意欲作。こうご期待です。石持浅海氏の「血塗られた手は、汚れていない」は、序章からいきなりテンションMAXの学園ミステリーです。高校三年の冬に起きた衝撃の事件から9か月後、大学生になった仲間たちは、あることをきっかけに中止になっていた卒業旅行に出かけるが……。その先に待ち受けているのは……たぶん惨劇なんでしょうねぇ。緊迫の展開にページをめくる手が止まりません!
読み切り短編では第27回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した斎堂琴湖氏の受賞後第一作「ラスト・ドライブ」を掲載。深夜、タクシーに飛び乗ってきた男の手には拳銃が握られていた……という冒頭から、この二人のドライブは予想もつかない展開を迎えます。新人賞受賞者のフレッシュで自信に満ちたツイストをお楽しみください。
そのほか、方丈貴恵氏〈アミュレット・ホテル〉、三津田信三氏〈妖 怪 談〉、岡崎琢磨氏〈HIPS〉など大人気の連作短編も充実。いずれも、単発で楽しめる秀作ですので今号からでも楽しめます。
また、前号で連載が終了した、新保博久氏と法月綸太郎氏の往復書簡「死体置場で待ち合わせ」の感想戦対談も必見! お二人とも往復書簡というスタイルの連載は初めてだったため、丸二年という長丁場ではいろいろご苦労もあったようで……。
著者と担当編集者が話題の本の裏側を語り合う「アフタートーク」には米澤穂信氏が登場。二十年間ずっと一緒に作品を作ってきた編集者と〈小市民〉シリーズ完結までの道のりを語ってくれました。
今号も楽しいミステリー企画が満載、どうぞお楽しみください。
最新95号も無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」をお読みいただけます。
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こんにちは。アランです。
いや~、暑いですね~。盛夏を前にすでに夏バテの気配を感じているこの頃。しかも、この後は恐怖の梅雨がやってくるんです。梅雨時はなんとなくお腹を壊しがちで、食欲も減退するんですよね~。じめじめした気候も気分最悪で、頭痛のタネになってきます。こんな季節は、やっぱりスパッと事件が解決する、爽快な謎解きミステリーを読みたいですね。
さて、そんな中、「ジャーロ」最新号は元気に発売!
今号の巻頭を飾るのは、竹本健治氏の長編「五色殺戮」です。この作品、じつは竹本氏が『匣の中の失楽』でデビューした直後に、とある評論家から「村山槐多が『五色殺戮』という長編を構想したまま夭折してしまったのだが、ひとつ、竹本君、このタイトルで槐多の夢を果たしてみませんか」というご指名を受けて以来、長年積み残していた宿題だそうで、なんと構想45年! 満を持しての新連載スタートです。
読み切り短編では倉知淳氏が「ジャーロ」に初登場! 倉知氏の隠れた人気シリーズである〈占い師はお昼寝中〉の 28年ぶりの新作となります。ちょっぴり怪しげな“霊感占い所“を訪れるのは、三十代のサラリーマン。早朝のオフィス、課長の背後に現れた透明な霊を霊視してほしいという。ぐうたらインチキ占い師の叔父・辰寅と、姪の女子高生・押しかけ助手の美衣子がコンビを組む安楽椅子探偵もの。キャラクターのコミカルさで読ませるほのぼのミステリーでありながら、人間の暗部をチクリと刺す毒っ気も孕んだ作品となっています。
また、本誌発の本格ミステリー新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」第三期のお二人が揃って対談企画に登場。『バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵』でデビューした真門浩平氏は東川篤哉氏と、『あなたに聞いて貰いたい七つの殺人』でデビューした信国遥氏は石持浅海氏と、それぞれの作品を推していただいた選考委員の方々と一対一で作品ができるまでを語り合ってくれました。
著者と担当編集者が話題の本の裏側を語り合う「アフタートーク」には青崎有吾氏が登場。一週間のうちに本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞、山本周五郎賞の三冠達成という、二〇二三年を代表する最強ミステリー『地雷グリコ』の制作秘話を大公開です。5つのゲームで描かれる究極の頭脳戦。美しく完璧な逆転のロジックはどのように生まれたのか?青崎氏の頭の中を少しだけ覗けたような気がします。
今号も楽しいミステリー企画が満載、どうぞお楽しみください。
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こんにちは。アランです。
いや~、春ですね~。ぽかぽか陽気に、桜も満開。僕たちにとっては過ごしやすい季節がやってきました。なんとなく、気持ちもウキウキワクワクして、野外活動も活発になるこの頃。どんどん新しいことにも挑戦したいですね!
でも、逆に困ったこともあって……。春は毛が生え変わる季節でもあって、どうしても抜け毛が多くなるんですね。そのせいで、最近編集部が大量の抜け毛で荒れ放題に(編集長、ごめんなさい!)。みんなは「仕方ないよ。そういう時季なんだから」と慰めてくれるんですが、ちょっぴり肩身の狭い日もあるんです。
さて、そんな春に出ましたジャーロ93号はいつも以上に豪華ラインアップになっています。
今号の巻頭特集は、第27回日本ミステリー文学大賞および新人賞の受賞を記念して、受賞者二人のインタビューをお届け。大賞受賞の今野敏氏は、警察小説を精力的に描き続け、第一人者となってからも今なお最前線で闘い続ける鉄人、警察小説への思いを熱く語っていただきました。そして、新人賞の受賞作は斎堂琴湖氏の『燃える氷華』。こちらも三人の警察官が登場する警察小説です。20年以上も新人賞に応募し続け、ようやくつかんだ栄冠、喜びにあふれたインタビューになりました。
今号は熱い短編作品が目白押し! まずは、昨年単行本も大ヒットとなった方丈貴恵氏の〈アミュレット・ホテル〉が新シリーズとなって帰ってきました。最新作「ドゥ・ノット・ディスターブ」は人気の動画配信者がホテル内でライブ配信中に殺される衝撃の展開。さらにレベルアップした濃密な本格魂を堪能ください。また、浅倉秋成氏の「完全なる命名」は抱腹絶倒! 浅倉ワールド全開のシニカルなコメディ。子どもの命名という一世一代の大仕事に挑む父親の苦悩に共感し、思いっきり笑ってください。今号からの新連載となる岡崎琢磨氏の「悪魔の救済」は〈HIPS〉という連作短編シリーズの第一作。労働しない代わりに毎月一定額を得られる会員組織HIPSが支持を集める20XX年の日本を舞台に不可解な事件が次々に発生します。
そのほか、三津田信三氏、佐川恭一氏、城山真一氏など、本誌で人気の連作陣も多数掲載。中でも斜線堂有紀氏の〈キネマ探偵カレイドミステリー〉がいよいよ最終回。嗄井戸と奈緒崎の物語の結末をお見逃しなく。
また、著者と担当編集者が話題の本の裏側を語り合う「アフタートーク」に森見登美彦氏が登場。大ヒット中の『シャーロック・ホームズの凱旋』はスランプ中のホームズを描いた作品ですが、どうもご自身のスランプとも密接な関係があったようで……。制作秘話を隠すことなく語ってくれました。
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こんにちは。アランです。
2024年が始まり早一カ月が経ちますが、みなさんはいかがお過ごしでしょうか? この冬は暖冬なんていわれていましたが、今年に入ると急に寒すぎる日が続いて、僕たち猫には最悪の季節。毎日、こたつの中で眠るしかないですね。ゆっくりミステリーを読んでは寝て、また起きて続きを読み始めては寝る……その繰り返しでなかなか読書量が増えていかないのが、もっかの悩みです。
さて、そんなこたつ生活の中で読むのにピッタリなのが「ジャーロ」最新号です。こたつの魔力に負けないくらいの魅力的なコンテンツが詰まっています。
今号は読み切り短編が大充実。まずは、昨年「本格ミステリ大賞」を受賞し、ランキング「本格ミステリ・ベスト10」でも2年連続の第一位に輝いた白井智之氏。小学校を舞台に、名探偵に憧れるぼくが身の周りで起こる不可解な事件に挑む「最初の事件」は、白井氏らしい複雑なプロットと鮮やかなどんでん返しが味わえる作品です。
カッパ・ツー第二期受賞者である犬飼ねこそぎ氏の「人形の目には映らない」もキレのいいロジックを堪能できる一作。大小多数の人形が置かれた事件現場、なぜか、その人形たちはすべて後ろを向いていた! というホワイダニットで、ラストの余韻まで楽しめるミステリーです。
「ジャーロ」初登場となる若手の新星・おぎぬまX氏の「退屈の特効薬」は、治験のアルバイト中の大学生が病室で行う一風変わった謎解きゲーム。元お笑い芸人で漫画家としても活躍するおぎぬまX氏の独特のセンスが光る本格ミステリーになっています。
続いて、注目の新連載が2本。折原一氏の「六つ首村」は横溝正史を彷彿させるような因習の残る山間の村で起きた惨劇を、過去と現在を交差させて描く意欲作。名手が技巧の限りを尽くして描く極上ミステリーにご期待ください。
城山真一氏は金沢のひがし茶屋街を舞台にした連作短編集〈金沢浅野川雨情〉で「ジャーロ」初登場! 1話目の「うさぎの水引細工」は、人気芸妓の殺人事件との関連を疑われた恋人を心配する水引職人を主人公に、濃密な人間ドラマが描かれます。
また、著者と担当編集者が話題の本の裏側を語り合う「アフタートーク」に井上真偽氏が登場。同時発売の二冊の本が絶妙に交差する、どちらから読んでも面白いパラレルミステリーとして大ヒット中の『ぎんなみ商店街の事件簿』について、制作の秘密を語ってくれました。
今号も楽しいミステリー企画が目白押し、どうぞお楽しみください。
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こんにちは。アランです。
今年も早いもので残り1カ月ちょっとになってしまいました。読もうと思って買ったけどまだ読めていない本が数十冊ほど積読状態になっているので、急いで読まないと……。
「今年の新刊は今年のうちに」をモットーにしているぼくとしては、この1カ月が追い込みなんです。だんだん寒くなってきて、お外に出るのも億劫になってきたので、ちょうどいいタイミング。温かい部屋でゴロゴロしつつ、一気読みしますよー。
さて、そんな慌ただしい師走に向けて、「ジャーロ」最新号もラストスパート。今号は人気の連作短編が3編揃いました。
佐川恭一氏の「七浪京大卒無職が本気で婚活やってみた」は、大人にならない38歳・無職の主人公が、ノンフィクション賞で一発逆転を夢見て奮闘するシリーズ。軽妙でコミカルな文章が楽しいドタバタ劇ですが、今回は婚活に挑みます。彼女いない歴=年齢の童貞男の婚活の行方は?
斜線堂有紀氏の〈キネマ探偵カレイドミステリー〉は映画談がてんこ盛りの人気シリーズ。今回の「水没錯誤の幽霊譚」では、廃墟での幽霊探しが始まります。引きこもりの名探偵・嗄井戸と親友・奈緒崎の関係の変化にも注目です。
三津田信三氏の〈妖 怪 談〉シリーズ第2弾「獺淵の記憶」は河童をモチーフにしたミステリーホラー。名手が仕掛けるゾクッとする恐怖を体感してください。いずれも、今回から読み始めても楽しめる魅力的な短編、初めての人でも安心してお楽しみいただけます!
また、今号からの新連載は宮本紀子氏の「路辺の灯」。江戸時代、深川の長屋で起こる事件に若き差配人が挑む、ミステリー時代劇が開幕です。
評論&企画の目玉は、著者と担当編集者が話題の本の裏側を語り合う「アフタートーク」に京極夏彦氏が登場。今回は特別編ということで装幀家の坂野公一氏にも加わっていただき、鼎談スタイルで〈百鬼夜行〉シリーズ17年ぶりの新刊『鵼の碑』ができるまでを大公開。ここでしか聞けない、ファン垂涎のぶっちゃけ秘話をお見逃しなく。
今号もじっくり味わえる、濃いミステリー企画が目白押し、どうぞお楽しみください。
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こんにちは。アランです。
ようやく暑さも落ち着いてきて、過ごしやすい季節になってきました。最近は天気のいい日はベランダでひなたぼっこをするのがお気に入りなんです。そうすると隣の家からサンマを焼くいい匂いがしてきたりして、身悶えしちゃいますね。猫にとってもこの季節は“食欲の秋”。編集長からは「食べ過ぎ注意!」なんて警告が出てますけど、美味しいエサの差し入れ、お待ちしてます!!
さてさて、そんな感じで食欲全開、体調万全なぼくですが、「ジャーロ」も負けず劣らず絶好調のようです。
前号からスタートした斜線堂有紀氏の〈キネマ探偵カレイドミステリー〉は、引きこもりの大学生が圧倒的な映画知識と天才的な推理力で事件を解決する大人気シリーズ。今回の「断崖空壁の劇場落下」では、空を飛んだとしか思えない、メリー・ポピンズさながらの傘を持った落下事件の真相に迫ります。一話完結の連作短編なので初めての人でも読みやすくおすすめです。
また、誉田哲也氏の〈姫川玲子〉シリーズ最新作である「マリスアングル」がいよいよ最終回! 衝撃の事件の結末をお見逃しなく!
今号の読み切り短編は2作品。岩井圭也氏の「堕ちる」は、美術館の学芸員が、生涯ひとりのモデルを描き続けた孤高の画家の秘密に迫る美術ミステリー。
そして結城充考氏の「首斬りの跡継」は87号に掲載された「首斬りの妻」と舞台を同じくした歴史小説。江戸時代中期の泰平の世、首斬りの一族と呼ばれた山田浅右衛門家は跡継がおらずお家断絶の危機に! そのピンチを乗り切った秘策とは?
評論&企画の目玉は、「〈本格推理〉三十年目の真実」。〈本格推理〉とは、本格の鬼と呼ばれた故・鮎川哲也氏を編集長に、一般公募から優秀作品を厳選し、その後数々の人気作家を輩出することになる伝説のミステリー・アンソロジーシリーズ。当時の関係者の証言で、編集長・鮎川哲也氏の功績、そして日本のミステリー界に与えた影響について振り返ります。
今号も濃いミステリー企画が目白押し、どうぞお楽しみください。
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こんにちは。アランです。
連日、35℃の猛暑日続きで、だら~んと何にもする気がおきません。昨年からのお願いを聞き入れてくれた編集長が、編集部に“ひんやりグッズ”を置いてくれたので、まあまあ快適ではあるんですが、部屋の中にだけず~っといると、それはそれで体調が悪くなるような気がして……。とはいえ、下手に外出すると、肉球を火傷しそうになるし。早く涼しくならないかなぁ~。
さてさて、そんな感じでまったくやる気の出ないぼくですが、「ジャーロ」は気合満点でますますはりきっているようです!
まずは、大人気作家の新連載が2本スタート。
三津田信三氏の「なぜかいるもの」は座敷童をモチーフに”一人多い“恐怖を描いた怪異ホラー。今後も〈妖 怪 談〉という連作シリーズとして隔号で連載していきます。
もう一方、斜線堂有紀氏の「所以懐古のオデッセイ」は著者の人気シリーズ〈キネマ探偵カレイドミステリー〉の最新作。引きこもりの大学生が圧倒的な映画知識と天才的な推理力で事件を解決します。
今号は読み切り短編も大充実。浅倉秋成氏の「行列のできるクロワッサン」はある日近所にできたパン屋さんの行列がどんどん長くなっていって、ついには……というシュールな物語。毎回、一風変わった作品を寄稿してくれる著者ですが、そんな浅倉ワールド全開の振り切った新作です。
今大注目!佐川恭一氏が87号に続いて二度目の登場。「高偏差値集団HENSA vs.七浪京大卒無職」の主人公は七浪目で京大に合格するも三年留年、今はノンフィクション作品執筆で一発当てることを夢見る38歳。そんな彼が人類の上位2%だけが入れる高偏差値集団HENSAの作るリアル脱出ゲームに挑みます。
昨年、『60%』で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した柴田祐紀氏の受賞後第一作「分裂する貉」も見逃せません。東北の田舎町で必死にしのぐ弱小やくざの年老いた組長の苦悩を描いたノワールで、受賞作同様の哀愁漂う憎めないキャラクターが魅力的!
いずれも著者の遊び心が満載の濃くて面白い作品ばかり。どうぞお楽しみください。
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こんにちは。アランです。
暖かい春が来たと思ったら、なんだか暑すぎる日が続いて、早くも夏のよう。こう暑いと、へそ天状態で、体がだら~んと伸びきってしまいます。
前号で「春は恋の季節、出会いを探さなきゃ!」と言っていたのですが、なかなかうまいことはいかないですねぇ。
読みたい本もたくさんあるのに、集中力も続きません。(もともと、集中力はあまりないんですけどね……)。編集部の環境改善を要求したいところです。昨年もお願いしました、“ひんやりグッズ”の常備をお願いします!
さてさて、そんな感じでだらけた日常を送っているぼくですが、「ジャーロ」は今号からスペシャルな連載がスタートしています!
まずは、あの赤川次郎氏が「ジャーロ」に初登場! ホームズ、ダルタニアン、エドモン・ダンテスら精神科病院の愉快な仲間たちが活躍する人気シリーズ〈第九号棟の仲間たち〉の最新作です。ぼくはもちろん〈三毛猫ホームズ〉シリーズの大ファンなんですが、〈第九号棟の仲間たち〉シリーズも素敵なキャラクターが満載で大好きです!
そして、もう一人、月村了衛氏も初登場です! 新連載長編「対決」は、医学部入試の女性差別問題をモチーフに大手新聞社の女性記者が果てなき戦いを繰り広げる作品で、肉球に思わず汗を握る緊迫感がたまりません。
また、今号の読み切り短編は岩井圭也氏の「海の子」。最愛の妻に先立たれた直後、残された老父は一人息子と仏壇の前で向かい合います。息子は自分が養子となった経緯を聞きたがり、ストーリーは予想もしない方向に……岩井圭也史上、もっともブラックな物語を、ぜひお見逃しなく♪
読み物では、連載企画「アフタートーク」に道尾秀介氏が担当編集者と登場。ラストの写真に隠されたもう一つの真実が話題の『いけない』シリーズの制作の裏側を語ってくれました。普通の小説とは違う異例の作品ならではの作り方には、ぼくも勉強になったなぁ。
さらに、誉田哲也氏が『アクトレス』のドラマ化を記念して、ドラマの脚本を担当した井上テテ氏と特別対談。旧知の仲であるお二人のドラマ秘話も必見です。
最新88号も無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」をお読みいただけます。
「ジャーロ dash」ではエッセイや評論、マンガ、新刊ミステリー書評や最新映画レビューなどの情報ページを、無料で読むことができます。さらに、長編連載、連作短編、読み切り短編の小説も、冒頭部分を試し読みできます!
「ジャーロ」の面白さを、まずは無料版「dash」でお試しください!
こんにちは。アランです。
春ですねえ。今年は例年より暖かくなるのが早かったらしく、桜も一気に開花しました。早めに暖かくなるのは、ぼくたち猫にもありがたいことで、外での活動も活発になります。
そしてまた、ワクワクしたり、ウキウキしたり、なんとなく心が落ち着かない季節の到来でもあります。
「春は恋をしやすい」って本当なんでしょうか。ぼくたち猫も恋の相手を探す季節なのは確かなんですが……いったいなんで、この時期? 出会いが多くなり、新生活が始まる季節だから、新しい恋が始まりやすいという説もあるらしいです。寒い冬を乗り越えて暖かくなり、気持ちも明るく緩んでくるから、という説もあり、これは寒さが嫌いなぼくたちには納得のいくところ。なかには、食べるものが豊富になり子育てに適しているからという、身も蓋もない説もありますが……これはちょっとストレート過ぎますね(笑)。
いずれにしても相手あってのものですからね。花の匂いを嗅ぎながら、ぼくも夜の散歩を増やしてみようかな……。
さて、そんな心明るくなる季節に出ました「ジャーロ」最新号。こちらも百花繚乱のラインナップです!
今号の巻頭特集は、第26回日本ミステリー文学大賞および新人賞の受賞を記念して、受賞者2人のインタビューを。「大賞」受賞の有栖川有栖氏はデビュー以来、本格ミステリーへの愛情とこだわりをもって執筆活動を続け、ジャンルを牽引し隆盛をもたらしたことを賞されました。そのミステリーへの熱い思いを語っていただきました。そして「新人賞」の受賞作は柴田祐紀さんの『60%』。裏社会のカリスマ的人物が、元銀行員とマネーロンダリング専門の投資会社を作り、組織の絆でアウトローの世界を戦っていく、美学に溢れたノワール小説です。執筆時の思い出と受賞の喜びを訊きました。
そして今号は読み切り短編を4編掲載! まず、結城充考氏の「首斬りの妻」。天明年間の太平の世に、型通りの暮らしを嫌い剣技を磨く武家の娘リクが出会ったのは首斬りの一族だった! そして浅倉秋成氏「花嫁がもどらない」では、晴れの舞台の結婚式で、なんと花嫁が控え室に閉じこもったままもどらない! 異様な浅倉ワールドが始まります。佐川恭一氏の「京大生黒ギャル交際事件」の主人公は、七浪目で京大に合格し三年留年、今はノンフィクション作品執筆で一発当てることを夢見る38歳。彼が目を付けたのはキャンパスを歩く黒ギャルと男だった……。本格ミステリーの新人発掘企画「カッパ・ツー」第二期で『密室は御手の中』が選ばれデビューした犬飼ねこそぎ氏。今回の「狐火の行方は知れない」は、神社の境内で目撃した怪しい火の正体を探る、本格マインドに溢れた短編です。いずれも著者の企みと遊び心に溢れた濃密な作品ばかり。どうぞお楽しみください。
最新87号も無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」をお読みいただけます。
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こんにちは。アランです。
2023年はいつの間にか1か月が経過してしまいました。「ジャーロ」も新年第1弾の86号が発売されました!
季節は着実に進んでいるとはいえ、2月中はまだ寒さが続きそうです。つまり、ぼくたち猫にはまだまだ炬燵が必要な季節が続くのです。
嗚呼、炬燵の中の暖かさのなんと素晴らしいこと……もう秒で溶けるように眠ってしまいます。そして炬燵の中から外へ出ることがつらいのなんの。朝はなかなか編集部に出かける勇気が出てきません。
そう、ぼくたちの種族の「猫」という名前は、「寝る子」「寝子」から来ているという説があるくらいですから、ほんとうによく寝る種族なんです。普通でもぼくたちは1日12~16時間ぐらい寝ていますが、炬燵の中に入ったら、もう永遠に寝ていられますね。あー、今日はもう早退して炬燵の中に戻ろう……編集長、お先です!
さて、そんな炬燵の誘惑に負けないくらい強烈に魅了してくるのが「ジャーロ」最新号です!
今号は新連載が2作。まず、あの姫川玲子がついに帰ってきました! 誉田哲也氏の大ヒットシリーズの待望の第10弾「マリスアングル」がスタートです。姫川はもちろん、菊田ら仲間たちの捜査行、再び! さらに五十嵐貴久氏の「PIT 特殊心理捜査班」シリーズの第2弾も始まりました。非業の運命を背負った警察官・蒼井俊が復帰した部署は……。ノンストップ警察ミステリー2作にご期待ください。
そして今号は読み切り短編を3編掲載! まず東川篤哉氏は、お馴染み「烏賊川市シリーズ」の「じゃあ、これは殺人ってことで」。自殺偽装した密室殺人成功!……のはずが、なぜか「殺人事件」として再偽装するハメに。今回も砂川警部の捜査は迷走するのか!? 岩井圭也氏の「僕はエスパーじゃない」では、誰もが羨む完璧なイクメン夫が実はある特殊な能力を持っています。彼に降りかかった悲劇とは? さらに、ホテル探偵が活躍する「アミュレット・ホテル」シリーズが人気の方丈貴恵氏。「タイタンの殺人」では、桐生がホテルの絶対的なルールと対峙することに! 個性豊かな3編をお楽しみください。
読み物企画では本誌で「矢吹駆シリーズ」の第10作「屍たちの昏い宴」を連載中の笠井潔氏が、同シリーズの第7作『煉獄の時』を刊行したことを記念して、書評とエッセイの特集を組みました。シリーズと最新作の魅力に迫ります。また、新人発掘企画「カッパ・ツー」第三期入選作がついに決定。選考委員の石持浅海氏と東川篤哉氏が、候補写真2人と直接話したうえで入選作を決定したレポートです。
最新86号も無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」をお読みいただけます。
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こんにちは。アランです。
この「ジャーロ」85号が発売されるころは、12月がもう目の前。街では早くもクリスマスに向けてイルミネーションがキラキラ輝き始めています。
正直なところ、ぼくは街のイルミネーションにはあまり興味はないのですが(部屋の壁に照らされたライトが動くと思わず飛びついてしまいますが……)、人間たちがやたらニコニコ楽しそうにしている季節なので、ぼくもつられて嬉しくなります。
そんな冬の始まり、編集部の中もだいたいは快適な温度になっていてぬくぬく過ごせるのですが……この時期、ぼくたちには嫌な難敵が現れます。それは……静電気です!
言わずもがな、ぼくたちの身体は全身毛で覆われているので、普通にしていてもどんどん静電気が溜まっていきます。いわば動く静電気タンクなのです。
人間がいつもの挨拶代わりに人差し指を顔の前に出してくると、思わず指先の匂いを嗅いでしまうのですが、この季節はその瞬間「バチッ!」と静電気が! 痛いのなんの。鼻を指先で弾かれたのかと思って、ダッシュで逃げたこともありました。しばらくその人には近寄りたくなかったです。
この時期にぼくたちに触れるときには、まず壁に触るなどして静電気を逃がしてからにしてくださいね。お願いします。
さてさて、「ジャーロ」最新号では、静電気ならぬ、熱い火花を互いに散らすミステリー作品の競演が!
まずは今号の目玉。澤村伊智氏の最新長編「斬首の森」を二号にわたって全編掲載する企画の後編をお届けします。マルチセミナーから脱出した男女に襲いかかる森の恐怖。彼らの運命は!? そして特別企画として、強烈無比な恐怖を書き続ける平山夢明氏と澤村伊智氏の特別対談も掲載。
新連載としては、デビュー作『あと十五秒で死ぬ』がヒットし、特殊設定ミステリーの先端を走る榊林銘氏の長編小説が始まります。「毒入り火刑法廷」は本物の魔女が存在する世界。魔女裁判にかけられた本物の魔女の無罪を論理で勝ち取れるのか!? ご期待ください。
さらに今号は読み切り短編を5編掲載! まず似鳥鶏氏の医療ミステリー「僕の体には呼べない一部がある」の主人公は、なんと泌尿器科医! そして快調にヒット作を生み出している浅倉秋成氏の「ファーストが裏切った」では、千葉マリーンズの一塁手がとんでもない“事件”を起こします。青柳碧人氏「酷寒に、巨大な顔を見る」は、亡き息子の巨大な顔が空に浮かぶのを見たといって死んだ妻の不可思議な物語。ミステリーの常識を覆しつつ、本格の真ん中を行く白井智之氏の「モーティリアンの手首」は、遠い未来の地球のある島で、かつて住んでいた異星生物の化石を発掘すると……。さらに上野歩氏の「九月物語」。電車内でワゴンサービスをする29歳の女性が、叔父夫婦の家に泊まって気がついた、あること。味わいは違えども、どれもとびきりの5編をお楽しみください。
読み物企画では〈デビュー20周年記念企画〉を。まず、「和菓子のアン」でおなじみ坂木司氏が、デビュー当時を知る3人と座談会。さらに新人発掘企画「カッパ・ワン」でデビューし、今年そろって新作を刊行した石持浅海氏、林泰広氏、東川篤哉氏が、20年前と今を語ります。読み応えたっぷりです。
今年から始めました無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」は、最新85号もお読みいただけます。
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こんにちは。アランです。
やったーっ! ようやく暑くてたまらない夏が終わり、待ちに待った秋がやってきます!
来る日も来る日も暑かった今年の夏、必死に冷たい場所を探しては移動して昼寝する日々。いやあー、長かったです。
あまり書きたくないけど、今年2022年の東京は、8月31日までに真夏日が54日、猛暑日が16日、熱帯夜が27日記録されました。なかでも猛暑日は過去最多となったそうです。書いているだけで、暑さがよみがえりますね!
そして、ついに来ましたよ、秋が。心置きなくどこでも昼寝できる幸せの季節(結局、昼寝ですが)。この時期、ぼくは仲間の猫でも人間でも、無性にくっつきたくなるんです。毛布とかでもいいのですが、やっぱり体温のある猫か人間がいい。涼しくなってこそ、猫や人間の温かさに幸せを感じられるってものです。あと、すりすりもしたくなりますね。
だから、ぼくがなんだか体をくっつけてきたり、すりすりしてきても、驚かずにそっと撫でてくれると嬉しいです!
ただ、この時期は抜け毛がたくさん服にくっつくと思うので、怒らないでくださいね。
さてさて、そんな温もりが恋しくなる“すりすりの季節”、ぼくの頭や背中を撫でながら読むのにぴったりな、熱いミステリーが満載の「ジャーロ」最新号が出ました!
まずは今号の目玉企画。ミステリーホラー界の最先端を走る、澤村伊智氏の最新長編「斬首の森」を今号と次号の二号にわたって全編掲載します! 勧誘されるがまま“会社”のセミナーに集まった男女。人里離れた森の中の合宿所に連れていかれた彼らを待っていたのは、異常な洗脳合宿でした。人間性を押し潰す支配と、光も差さない森の恐怖が迫ってきます!
そして新連載長編小説も2作スタートします。まず、大崎梢氏の「春休みに出会った探偵は」。父親と二人暮らしだった中学生の花南子は、曽祖母のアパートでひとり暮らしを始めます。新生活が始まった矢先、近所では不穏な事件が……。もう1作は額賀澪氏の「鳥人王」。アスリート芸人・御子柴陸がスポーツバラエティ番組で挑戦する競技は、なんと棒高跳! スポーツ小説の名手・額賀氏が描く新たな物語です。
さらに読み切り短編も2編掲載! いま注目の作家、岩井圭也氏が「捏造カンパニー」で描くのは、とあるアパートの一室にある会社で税務調査が巻き起こす、普通じゃない会社の普通じゃない一日。岩井ワールドが1ページ目から読者を引き込みます。そして小説宝石新人賞でデビューした木村椅子氏の「触れられなかった象を投げる」は、今ひとつさえない教師が、教え子のテストでの不正行為の噂に立ち向かいます。二人が見せる短編小説の新たな楽しみをご堪能ください。
読み物企画でも新連載が。昨年で25回を数える日本ミステリー文学大賞。その受賞者たちの顔ぶれは、そのまま日本の戦後ミステリー史と言っても過言ではない錚々たるもの。今号より、毎回一人の受賞者を取り上げ、その作風や作家の横顔、お薦め作品などを掘り下げていきます。連載第1回は佐野洋氏です。ご期待ください。
今年から始めました無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」は、最新84号もお読みいただけます。
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こんにちは。アランです。
この6月から7月にかけて、梅雨が早めに終わったかと思うといきなり真夏のような暑さに。もう盛夏突入?と思いきや梅雨の戻りがあり、そしてまたまた気温が一気に上昇。
僕たち猫は肉球と鼻しか汗をかけないので、体温調節は普通でも苦手です。これだけ温度と湿度が高くなると、もういつでも熱中症になってしまう危険があるんです。
夏本番を前に、すでにバテバテです。エアコンの下のソファで寝ていても、今はそっとしておいてくださいね、編集長。……あと、できれば“ひんやりグッズ”を編集部に常備してください。冷却ジェルシートなんか大歓迎ですよ!
さてさて、そんなどうにも力のでないぼくですが、「ジャーロ」は今号も元気な読み切り短編を掲載しています!
まずはいま注目の作家、浅倉秋成氏の「そうだ、デスゲームを作ろう」。営業マンの花籠は山奥の一軒家を購入しましたが、それはこの家を「デスゲーム」の場とし、長年恨み続けてきた営業相手を誘い込んで復讐するため。彼は一人こつこつと備を始めます。そう、DIYで作るデスゲームだったのです……。浅倉氏の“ダークサイド”が垣間見える一遍です。
そして、犯罪者御用達のホテルを舞台とした方丈貴恵氏の「アミュレット・ホテル」シリーズ、最新短編「一見さんお断り」も掲載。難攻不落のアミュレット・ホテル別館にどうしても入り込みたい男。彼の前に立ちはだかるのは、ホテル探偵の桐生。男はうまく侵入することができるのか?
さらに読み切り短編の特集として、新人賞受賞作家三人の受賞第一作を掲載しました。第25回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した麻加朋氏と大谷睦氏のお二人と、第14回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞した白木健嗣氏が登場、バラエティ豊かな三遍で共演します。それぞれの個性をお楽しみください。
読み物では、ミステリー評論家の新保博久氏と、ミステリーの実作家であり評論活動も行う法月綸太郎氏が往復書簡形式で語り合う「死体置場で待ち合わせ」を新連載します。手練れのミステリー読みである二人が、現代の若いミステリー・ファンに向けて、ミステリーの楽しみ方や思いも寄らない視点を提示します。ご期待ください。
今年から始めました無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」は、最新83号もお読みいただけます。
「ジャーロ dash」ではエッセイや評論、マンガ、新刊ミステリー書評や最新映画レビューなどの情報ページを、無料で読むことができます。さらに、長編連載、連作短編、読み切り短編の小説も、冒頭部分を試し読みできます!
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こんにちは。アランです。
前号で春の訪れを感じていたのはついこの前なのに、もう初夏、そしてもうすぐ梅雨ですね。結局、この春のぼくは、彼女出来ず終い。いつも通りの平穏な(?)初夏を過ごしています(涙)。
でも、まだまだ夏本番までには時間があります。本当に熱い夏になると、ぼくらの活動は一気に鈍くなるので(日中はヘソ天などの無防備「おだらけポーズ」で、ひたすら怠惰に過ごします)、梅雨までが勝負。頑張るぞ。
さて、梅雨前のひとときの晴れ間に、「ジャーロ」も最新号ができあがりました。澄み切った青空のような、快作ミステリーが目白押しです。
今号も読み切り中・短編三作を掲載! まずは柄刀一氏「南美希風・国名シリーズ」の中編「或るチャイナ橙の謎」。芸大の学園祭に招待された美希風は、あべこべだらけの不可解な密室殺人事件に遭遇してしまいます。美希風の頭脳はこの謎を解けるのか!? そして、岩井圭也氏の「極楽」は、認知症のふりをして施設に入り借金取りから逃げようとする老女の、人生を懸けた大芝居。はたしてうまく逃げおおせるか。さらに、森川智喜氏の「悪運が来たりて笛を吹く」は、金を奪うつもりが相手を殺してしまった男の前に「祠の精霊」が現れ、男を助けると言い出して……「悪運」の力を手に入れた男の未来は!? どの作品も謎と不可思議に満ち溢れた極上のミステリーです!
読み物では、連載企画「アフタートーク」に、このほど『灼熱』で第七回渡辺淳一文学賞を受賞された葉真中顕氏と担当編集者が登場。本書が生まれるまでの裏話をたっぷりと話していただきました。また、洋服やファッションの魅力に満ちた、松澤くれは氏の新作『明日のフリル』にちなんで開かれたイベントを、多数の写真とともにレポートしています。
その他、快調連載中の長編連載・連作短編小説も盛りだくさん。お楽しみください。
今年から始めました無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」は、最新82号もお読みいただけます。
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こんにちは。アランです。
ようやく春ですね。いまこの原稿を書いてる時点で、東京は桜の開花宣言が出たばかり。満開までは、もう少し待たなくてはなりません。
この時期、ぼくの仲間たちはなんだか落ち着きをなくします。ときどき、間違いなく仲間と思われる鳴き声が、ときに長く、ときに激しく夜の町から聞こえてきたりします。
その声を聞くと、なんだかぼくもそわそわと落ち着かなくなります。何をしたいのか、自分でもよく分からないのですが……。
そんなとき青空を背景に、風で花びらが舞う満開の桜を眺めていると、少し落ち着いて穏やかな気持ちになります。だいたいそのうち、居眠りしてしまうのですが。
さて、桜の開花とともに、「ジャーロ」も最新号ができあがりました。
今号から大倉崇裕氏の「一日署長 ~一九八五~」が新連載。警察官となった五十嵐いずみが配属となったのは史料編纂室。地味な警察官ライフが待っていると思いきや、五十嵐の身にとてつもないことが巻き起こります! 大倉氏ならではのユーモアと驚天動地の展開をお楽しみください。
読み切り短編では、いま大注目の作家、浅倉秋成氏の短編を2作一挙掲載します! 「傘がない」「木道」は、短編の楽しみに溢れた浅倉流“奇妙な味わい”であり、新境地を開く二編です。また、森川智喜氏の「動くはずのない死体」は、森川氏一流の不可解状況と意外な結末に、驚くこと必至。そして昨年、新人発掘企画「カッパ・ツー」第二期に選ばれ、『密室は御手の中』でデビューした犬飼ねこそぎ氏の初短編「トンネルの先へは行けない」を掲載。大学サークルに巻き起こる不可能状況の殺人を描きます。さらに水沢秋生氏は、大正時代に実在した大阪・楽天地の展望台で起きた幽霊騒ぎから始まるミステリー「大正千日前探偵奇譚」を。
読み物では、今号より佳多山大地大地氏の「名作ミステリーの舞台を訪ねて」が新連載となります。タイトル通り、名作ミステリーの舞台となった土地・建物を実際に訪ね、作品の魅力を紹介する企画。最初に取り上げるのは松本清張『砂の器』で、作品内で登場する鳥取、島根、広島を探訪、2回分のボリュームでお届けします!
そして昨年、話題の作家10人の本音に迫る野心的対談集『新世代ミステリ作家探訪』を光文社より刊行した若林踏氏が、対談の第2シーズンをスタート。その情報をお届けする「『新世代ミステリ作家探訪』通信」を今号から始めました。
新連載の小説と読み物、読み切り短編小説だけでなく、快調に連載中の長編連載・連作短編小説も盛りだくさん。お楽しみください。
前号から始めました無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」は、もちろん最新81号でも読むことができます。
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こんにちは。アランです。
相変わらず寒い日が続きますね。ぼくもちゃんと冬毛を装備してますのでなんとか対応してますが、それでも朝の寒さ、特に冷たい床は大の苦手です。「お腹すいたな……ご飯食べたい。でも布団から出たくない……」と、毎朝、食欲とぬくぬく朝寝の二つの欲求の間で揺れ動いています。前回書いた知り合いのお宅の床暖房が我が家にも欲しい!
コロナ・オミクロン株の感染が拡大していて、「ジャーロ」編集部でも在宅勤務が増えています。猫として在宅は基本的に得意なのですが(いくらでも家で寝ていられます。勤務中だから寝ちゃいけないのですが……)、賑やかな編集部で編集長や先輩たちのばか話が聞けないのはちょっと寂しい気もします。
さてさて、自宅で過ごす時間が増えた皆さんの強い味方でありたい「ジャーロ」。新しい年の1冊目となる今号から4作の新連載が始まります。まず坂木司氏「和菓子のアン」の待望の新シリーズがスタート。竹本健治氏は、幕末の偉才・鍋島直正を主人公に佐賀藩を描く時代長編「話を戻そう」。辻堂ゆめ氏は、市役所でカウンセリングをする臨床心理士が主人公の長編「2020心の相談室」を。そして、古野まほろ氏が究極のロジックを展開させる連作「ロジカ・ドラマチカ」。刺激的で魅力的な物語をお楽しみください。
また、読み切り短編も、白井智之氏「奈々子の中で死んだ男」、岩井圭也氏「蟻の牙」、阿津川辰海氏「六人の激昂するマスクマン」という、切れ味抜群の3編をラインナップです!
そして「ジャーロ」は今号より、評論・エッセイなどの読み物を大幅リニューアルしました。新しいコンテンツとして、著者と担当編集者が本の制作の裏側や楽屋話を展開する「アフタートーク 著者×担当編集者」。第1回は光文社より刊行された『新世代ミステリ作家探訪』の著者&編集者が登場です。また、TOKYO FMの犯罪ドキュメンタリーとタイアップして番組情報をお届けする「『トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル』の舞台裏」もスタート。さらに、稲田豊史氏の「ミステリーファンに贈るドキュメンタリー入門」、杉江松恋氏の「日本の犯罪小説 Persona Non Grata」、千街晶之氏がコロナ禍のなかのミステリーの変化を探る「ミステリから見た『二○二○年』」など、読み物がさらに深く広く、充実しました。粒ぞろいの新連載を、ぜひ第1回からお読みください。
さらにご報告です。
「ジャーロ」は今号より、無料試し読み版「ジャーロ dash(ダッシュ) 」を始めます!
エッセイや評論、マンガ、新刊ミステリー書評や最新映画レビューなどの情報ページを、「ジャーロ dash」では無料で読むことができます。また、長編連載、連作短編、読み切り短編の小説も、冒頭部分を試し読みできます!
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こんにちは。アランです。
先日、知り合いのお宅にお邪魔したのですが、普通に床に座って話していたら猛烈な睡魔に襲われました。「いかん、いかん、寝たら失礼だし」と必死に目を開けていたのですが、ふと気が付いたら目を閉じて寝そべっていて、さらにまたしばらくして気が付いたら仰向けになって熟睡していました……。
もともと眠るのは大好きですが、これまでにない蕩けるような睡魔だったのです。そして、仰向けになった背中が触れる床の温かいこと!
あとで訊いたら床暖房とかいうものを使っているそうで、なんというのでしょう、気が付かないうちにじんわり体に染み込んでくるような温かさなんです。床暖房で眠りに入るときは、もう天国。一生ここから動きたくないと思いました。
この床で寝そべったままミステリー小説を読んだら最高だろうな、と思いましたが、2~3行読んだだけで寝ちゃいそうですね(笑)。
さて、「ジャーロ」は今号も、床暖房の眠気にも負けない面白いミステリーが目白押しです!
まず新連載として、薬丸岳氏の長編「神の配剤」が始まりました。男手一つで難病の息子を育てる高坂は、強盗事件を起こし執行猶予付きの有罪判決を受ける。苦境に喘ぐ中、不可解な〝仕事〟の依頼が舞い込むが……。出だしから引き込まれる新連載にご期待ください。
また、スペシャル・ゲストも、阿津川辰海氏「入れ子細工の夜」、上野歩氏「ひとつのメルヘン」、大石直紀氏「スペイン窓の少女」、方丈貴恵氏「クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人」、森川智喜氏「フーダニット・リセプション 名探偵粍島桁郎、虫に食われる」と豪華ラインナップ! 読み切り短編ですので、どこからでもお読みいただけます。
さらに、笠井潔氏の評論「ポスト3・11文化論」が今号より「ポストコロナ文化論」として再スタートしました。
ここでお知らせです。「ジャーロ」は次号の2022年1月号から大幅リニューアルします!
そのため、評論・エッセイのうち、霧舎巧氏「『ミステリ・ドラマ』の名台詞」、千街晶之氏「ミステリアス・アートギャラリー」、円堂都司昭氏「夜明けの紅い音楽箱」、佳多山大地氏「意外と意外な意外性」、貝谷郁子氏「一杯のお酒から読むミステリー」、堀燐太郎氏「おもちゃ探偵FILE」、泰川紀氏「ジャーロの国から」が今号で最終回となります。長い間、ご愛読ありがとうございました。そのうち、「一杯のお酒から読むミステリー」は最終回特別編として「クリスマス・ミステリー」を特集しています。
次号から始まる新企画もお楽しみに!
こんにちは。アランです。
眠いです……。
まだまだ残暑が続きそうですが、一方で夕方から夜にかけて吹く風には、秋の気配をくんくんと嗅ぎ取っていたりします。
ぼくたちは、この時期から急に眠気に襲われるようになるんです。もともと寝るのは大好きですが、ほんと一日中眠い。大嫌いな暑さと湿気の夏をなんとか乗り切れそうで、安心から夏の疲れが出るてくるのでしょうか。
この1年以上、夜の路地裏でやっていたぼくたち猫の「集会」も密になるということで、ずっと自粛。そのぶんさらに家に籠もる日々が続いていたので、寝る時間には困らないのですが……。
先日もお気に入りのタオルをしっかり踏み踏みし、寝る態勢を整えてから、いざ今号のゲラを読み初めましたが(編集長、怠惰な読み方でごめんなさい!)……、いやいや眠気なんてどこへやら、夢中で読み進めてしまいました。気がつけば深夜まで一気読み、そのまま勢いで夜中の近所の偵察にでてしまったぐらいです!
そうなんです、ようやくミステリーに相応しい季節がやてきました。今号の内容も夏の疲れを癒やしてくれる面白い作品がてんこ盛りですよ!
今号から新連載の小説が2作。まず、「ジャーロ」初登場の香納諒一氏の長編「刑事花房京子 逆転のアリバイ」。独特の直観と観察眼で事件現場の矛盾を見つけ出す女性刑事・花房京子が、刑事コロンボばりに執拗に綻びをつき、犯人を追い詰めます。そして青柳碧人氏の「クワトロ・フォルマッジ」。タイトルはイタリア語で「4種のチーズ」という意味で、ピザのメニューでお馴染みです。あのピザのように4つの人生が隣接し、ときに交じり合い、殺人事件に翻弄されていく人間模様を描きます。
また、スペシャル・ゲストも2作掲載。まず、大石直紀氏の「京都文学ミステリー 東柱と東柱」は、不良少年の東柱と彼の名前の由来である太平洋戦争中の一時期、同志社に留学していた韓国の詩人・尹東柱の人生が、時を超えて結びつく物語。ラストシーンが心にじんわり染みてきます。もう1作は森川智喜氏の「幸せという小鳥たち、希望という鳴き声」。洋菓子メーカーを起業し創立2周年パーティーを迎えた女性社長の用意したドレスがずたずたに! 犯人はいつ控え室に入ったのか? 残された手書きのカードは姉のものと思われるが……。ハウダニットとホワイダニットの謎解きが切れ味鋭い一編です。
企画では、「ジャーロ」誌上で作品を募集した新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」第二期に選出された、犬飼ねこそぎ氏の『密室は御手の中』がついに刊行されたことを記念して、選考委員の石持浅海氏、東川篤哉氏と犬飼氏の3人による座談会を行いました。応募作がどう改稿され単行本となったのか、詳しく語ります。また、前号からの2号連続企画として、写真週刊誌「FLASH」から毎年生まれる「ミスFLASH」の、2021年度の4人にご登場願い、評論家の円堂都司昭氏と千街晶之氏が指南役となって、ミステリー映画の楽しい観方を探る「名作ミステリー映画への誘い」。今号は『ナイル殺人事件』の愉しみ方を千街氏が指南します。
秋は物語に浸るのにぴったりの季節だと、改めて感じる今日このごろです。
こんにちは。アランです。
今号もいきなりですみませんが、死にそうに暑いです。
前号で、湿気が苦手で梅雨時はダメ猫になってしまうと書きましたが、それ以上に暑さが苦手なんです。
夏毛に生え替わったとはいえ、やはり全身が毛で覆われていますし、ぼくたちは汗腺が肉球にしかないんです。だから夏は口を開けっぱなしでハーハーと熱を逃がさないと、すぐ熱中症になっちゃいます。犬みたいに水浴びするのも嫌いですしね。結構、大変なんですよ。
先日も、会社の階段の床が冷たくて気持ちいいので、寝そべって熱を逃がしていたら、つい居眠りしちゃって、階段を上ってきた人が横になってるぼくを見て驚いてましたね。驚かせてごめんなさい。
これから2か月ぐらいは、会社内の涼しいところ、冷たいところを探しては移動して仕事してます。
でも、床に寝そべりながらも(すみません)、隔月刊「ジャーロ」はちゃんと進めてます!
そうなんです、今号の内容も夏バテを忘れさせてくれる面白いミステリーが目白押しですよ!
今号から新連載の小説が2作。まず、柴田哲孝氏の長編「蒼い水の女」は刑事・片倉康孝シリーズの最新長編。石神井公園で見つかった身元不明の遺体から、片倉は大井川鐵道へと捜査に向かうことに。そして早坂吝氏の「迷宮(す)いり」。常に新しいテーマに挑みながら本格ミステリーの最先端を行く早坂氏は、今作も挑戦的な設定と謎を見せてくれます。
また、スペシャル・ゲストも3作掲載。青柳碧人氏の「8050限定アイテム」は挫折からひきこもりとなり、ネットワーク・ゲームに没頭する五十代の男の下を、突然ゲーム会社の人間が訪れます。あることをすれば、ゲームの限定アイテムが手に入ると提案してきますが……。岩井圭也氏の「玩具の言い分」は、退職後におもちゃドクターとなった主人公が、おもちゃを修理しに持ってきた少女の言動に疑問を抱き、その謎を解こうとします。そして、もう1編は昨年、日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した茜灯里氏が短編に挑戦した「月の棺」。月旅行ができるようになった近未来、月面のロケット格納庫で殺人事件が起きるという、驚きのミステリーです。
さらに今号は企画が2本。まず本格ミステリ作家クラブの設立20周年記念企画として、「2010年代海外本格ミステリ ベスト作品選考座談会」を開催。10年間の翻訳ミステリのベストに輝いたのはどの作品か!? そして、2号連続企画として、写真週刊誌「FLASH」から毎年生まれる「ミスFLASH」の、2010年度の4人にご登場願い、評論家の円堂都司昭氏と千街晶之氏が指南役となって、ミステリー映画の楽しい観方を探っていきます。今号掲載の前編は「犬神家の一族」の愉しみ方を円堂氏が指南します。
どの読み物も、体温が上がりそうなほど熱気の籠もった作品ばかり。暑さを忘れさせるとはいえ、冷房のきいた涼しいところで愉しんでくださいね。
新連載とスペシャル・ゲストに注目です!
こんにちは。アランです。
いきなりですが、ぼく、湿気が苦手です。湿度が高いと体が重くなるというか、だるくなるというか……毎年、梅雨時はダメ猫になってしまうんです。
そのうえ今年は例年より梅雨がかなり早く来ているようで、参りました。朝目覚めると「ダル重~」で、伸びをする元気もなかなか出ません。
でもでも、そんなことは言っていられません! 隔月刊化で締切はどんどんやってきます。しかも新連載小説も盛りだくさんで、湿気を吹き飛ばしてくれるような面白いミステリーばかり! ダル重なんて忘れるほど、読み耽ってしまいました。
そうなんです、早いもので年6冊の隔月刊行となった「ジャーロ」は、もう隔月の3号目となりました。そして今号でも小説3作の新連載が始まりました!
まず、五十嵐貴久氏の長編「奇跡を蒔くひと」は、経営危機に陥った市民病院の再建を担う若き医師の奮闘を描きます。そして樋口明雄氏の連作シリーズ「南アルプス山岳救助隊K-9」。山岳救助隊と山岳救助犬が活躍する人気山岳小説が「ジャーロ」でスタートです。さらに折原一氏の連作「グッドナイト 子守唄はもう聞こえない」も始まりました。寝つきの悪い息子のために、ノイローゼ寸前の母親が訪ねた先は……。第一話から折原ワールド全開です。
そして、スペシャル・ゲストとして山田正紀氏の「咸臨丸ベッド・ディテクティブ」も掲載です。あの咸臨丸の船上で、船酔いで寝たきりの勝麟太郎にジョン万次郎が語る「怪談話」とは? 山田氏ならではの奇想をお楽しみください。
さらには、芦辺拓氏「殺されるのは誰だ」、我孫子武丸氏「凜の弦音2」、石持浅海氏「座間味くんの推理」、恩田陸氏「梟の昼間」、朱川湊人氏「知らぬ火文庫」、矢樹純氏「Mother Murder マザー・マーダー」、の連作陣、西條奈加氏「バタン島漂流記」、中山七里氏「鬼の哭く里」、長浦京氏「1947」、東川篤哉氏「スクイッド荘の殺人」、深町秋生氏「探偵は田園をゆく ~シングルマザー探偵の事件日誌~」、藤野恵美氏「ギフテッド」の長編陣も、ますます絶好調です。
小説以外の企画では、連載コラムの貝谷郁子氏「一杯のお酒から読むミステリー」のスペシャル版として、「ひと皿の料理から読むミステリー」を特集しました。
「ミステリー小説の登場人物が旅先で出会ったひと皿」からその作品を掘り下げるという企画です。新刊とクラシックから、4作のミステリーを厳選! 作中の料理のレシピも付いています。いつもの年なら夏休みの旅行の計画をたてているこの季節ですが、それもままならない今日この頃。主人公たちと一緒に、旅を楽しみ謎解きを楽しみ、料理を作ってお楽しみください。
僕も湿気に負けず、集中して読みこんでいます! あっ、グルーミングの時間はしっかりとってますけどね。
こんにちは。春らしい気候になりましたね。桜の花を見上げていると、なぜか連続でクシャミをしてしまうアランです。
さて、前号から年6冊の隔月刊になりました「ジャーロ」は、隔月刊第2弾がついに発売となりました。
各号の間隔が短くなって、1冊が終わってもすぐ次の号の準備にとりかかるので、ぼくも尻尾をぶんぶん振り回して頑張ってます!
隔月刊第2段の75号ですが、対談とインタビュー記事が盛りだくさんです!
まず、毎年3月発売号で恒例の「日本ミステリー文学大賞・新人賞」特集。
第24回大賞を受賞した黒川博行氏のロング・インタビューでは、「疫病神」シリーズや「堀内・伊達シリーズ」など、大阪の舞台と人にこだわってヒット作を生み続けてきた創作の秘密を語っていただきました。
そして新人賞を受賞した茜灯里氏と選考委員の朱川湊人氏との対談。馬が暴れだし人間を襲う「新型馬インフルエンザ」が発生した近未来の日本での、人間対ウイルスの闘いを描いた受賞作『馬疫』の魅力と、デビュー後の作家生活について熱い対談をしてもらいました。
さらにスペシャル対談が二つ!
まず日本ミステリー文学大賞新人賞で来期より選考委員となる、辻村深月氏と薬丸岳氏のお二人に、新人賞応募にあたってのネタやテーマの立て方、原稿の書き方などを対談していただきました、小説の新人賞への応募を目指す人にはとても役立つ情報が満載です。
もうひとつの目玉対談は、「姫川玲子シリーズ」などで人気の作家・誉田哲也氏が、元「欅坂46」のメンバーで卒業後は新たな活動を始めている長濱ねる氏と異色対談!
文章を書くこと、小説を書くことから、近況まで、たっぷりと語り合っていただきました。
小説では2シリーズの新連載がスタートです。
中山七里氏の長編「鬼の哭く里」は、終戦後、かつての大地主だった家が没落していく姿を描きます。そしてもう一つは大山誠一郎氏の連作短編「ワトソン力2」。周りの人間の推理力を高めるワトソン力の所有者・和戸宋志がまたも事件に遭遇します。
そして今号のスペシャル・ゲストは水生大海氏の「滅びの呪文」。殺したはずの少女から手紙が届き、共犯の兄とともに真実を探り始めるが……意外な真相が待っています。
連載・連作陣はますます絶好調。
前号より連載がスタートした、矢樹純氏「Mother Murder マザー・マーダー」、深町秋生氏「探偵は田園をゆく ~シングルマザー探偵の事件日誌~」、西條奈加氏「バタン島漂流記」、藤野恵美氏「ギフテッド」、長浦京氏「1947」は第2回を掲載、いよいよ物語が動き始めました。
また、近藤史恵氏「元警察犬シャルロット」と前川裕氏「クリーピー・ゲイズ」は最終回を迎え、芦辺拓氏「罠にかけるのは誰だ」、石持浅海氏「座間味くんの推理」、恩田陸氏「梟の昼間」、朱川湊人氏「知らぬ火文庫」、東川篤哉氏「スクイッド荘の殺人」など、山場を迎えた各作品にもご注目ください。
さあ、ぼくも尻尾の回転をさらに速めて頑張りますよ!
こんにちはアランです。前号の2020年秋号から少し間があいてしまいました。お久しぶりです。
このホームページでもお伝えしました通り、2021年より「ジャーロ」は年6冊刊行の隔月刊雑誌となります!
刊行月は1月、3月、5月、7月、11月の奇数月で、基本的に第4金曜日の発売です(この74号のみ第5金曜日の発売とさせていただきました)。
隔月刊となりましても、知的興奮と驚きに満ちたミステリー小説、ミステリーの楽しみをより広く深くする評論やエッセイ、注目の作家のインタビューや座談会など、誌面作りの方向性は変りません。スタッフ一同頑張って、これまで以上に充実した誌面を作っていきます。これからもミステリー誌「ジャーロ」をよろしくお願いします!
隔月刊のスタートとして、今号では一挙5シリーズの新連載を掲載しました。
矢樹純氏がじわっと不気味な家族を描く連作シリーズ「Mother Murder マザー・マーダー」を始め、長編では深町秋生氏の「探偵は田園をゆく ~シングルマザー探偵の事件日誌~」、西條奈加氏の海洋冒険時代小説「バタン島漂流記」、藤野恵美氏の中学受験小説「ギフテッド」、そして長浦京氏が太平洋戦争直後の日本の闇を舞台とする「1947」と、どれもミステリーの魅力たっぷりの作品ばかりです。どうぞお楽しみください。
また、今回もスペシャル・ゲストをお迎えしています。
まずは白井智之氏の「ディティクティブ・オーバードーズ」は、読めば読むほどクセになる白井ワールド全開の一編。名探偵たちの繰り広げる推理に、ページを捲るのももどかしくなります。
そして2020年のミステリー・ランキングを『透明人間は密室に潜む』で席巻した阿津川辰海氏の「二〇二一年度入試という題の推理小説」。今度は大学受験の記述問題にミステリーの犯人当てが出題され大混乱となる受験界が舞台。はたして犯人当ての「正解」は?
連載・連作陣は今号もさらに絶好調。青柳碧人氏「スカイツリーの花嫁花婿」はついに最終回を迎え、芦辺拓氏「殺されるのは誰だ」、我孫子武丸氏「凜の弦音2」、石持浅海氏「座間味くんの推理」、恩田陸氏「梟の昼間」、近藤史恵氏「元警察犬シャルロット」、朱川湊人氏「知らぬ火文庫」、東川篤哉氏「スクイッド荘の殺人」、前川裕氏「クリーピー・ゲイズ」など、充実のラインナップ。どこから読んでもドキドキ感が止まりません。
もちろん隔月刊になっても、ぼくアランは引き続き見習い編集者として頑張ります。もっともっとミステリーを読んで、ぼくなりの楽しみ方を見つけて皆さんにお伝えしていきたいと思いますので、ぼくのことも忘れず応援してくださいね!
「祇園精舎の~鐘の声~、諸行無常の~響きあり~ジャラララーンッ! っときたもんだ」
またも後ろの席から仕事を邪魔する先輩のダミ声が。
「どうしたんですか、蛙が踏み潰されたような声を上げて」
「うるせーな。アラン、お前は蛙が踏み潰された声を聞いたことあるのかよ!?」
「……いや……ないです。すみません。蛙は突っついて遊んだぐらいで。あ、ぼくは蛙は食べない派です」
「えっ、お前の仲間には蛙食べる派がいるのか? そっちのほうが驚くぞ」
「まあまあ、それは置いておいて、さっきの下手なお経か呪文みたいなの、なんだったんですか?」
「失礼な。祇園精舎の~、って知らない? 『平家物語』の出だしだよ。諸行無常の~~」
「いちいち歌わないでください。『平家物語』ならタイトルは見たことあります」
「歌うというより『語る』と言ってほしいね。実は昨日、ある人に琵琶の演奏会に連れていってもらってね。そこで『平家物語』を聴いたというわけ。いやあ、素晴らしかった」
「たまには文化的なこともするんですね」
「だろ。祇園精舎の~鐘の声~」
「どうでもいいですけど、さっきから出だしばっかりですね。続きはないんですか?」
「バレた? 実はここしか知らんのよ。昨日の語りも、途中からよく聞き取れなかったし」
「出だしだけは聞き取れたんですか?」
「これがまた種があってね。中学校の古文の授業だったかな、『平家物語』の出だしを暗誦するテストがあったんだ。そのとき覚えたのを未だに忘れてないんだよね。おかげで昨日も出だしだけはよく分かった」
「そんなテストがあったんですか」
「他にも覚えたなあ。春はあけぼの。やうやう白くなり行く、山ぎはすこしあかりて、って、これは『枕草子』。あと、いづれの御時にか、女御・更衣あまたさぶらひたまひける中に……これは『源氏物語』だな」
「なんか、いつになく先輩が教養人に見えてきました!」
「まだまだ! ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらずー! これは『方丈記』。そしてそして、月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也! は『奥の細道』だぁー! ベンベン」
「いや、そこまでやると、山手線の駅名を自慢げに暗誦する子供みたいに見えてきました」
「『過客』を「かかく」と発音しにくくて困ったのは、古典あるあるだな……アラン、さっき教養人っていったけど、正直なところそんなわけないのは分かってるだろ。中学生のころはまだ記憶力があったし、テストだからとりあえず覚えたけど、意味はほとんど分からなかった。その後、原典をちゃんと読んだこともないしね。ただの丸暗記だよ。
だいたいさ、脳みその90パーセントは女の子のこと考えてる中学生男子がだよ、無常観なんて言われても分かるわけないだろ。
当時はオレは、ミステリーやSFばっかり読んでたしな。古典といっても、アガサ・クリスティから広がってマザー・グースを追いかけるぐらいだったからな」
「そうなんですか。ぼくからしたら、それだけ暗誦できるのでもすごいですよ」
「まあ、当時の先生も、暗誦がきっかけでクラスの一人でも原典を読んでくれれば、と思ってたんだろうね。この年になると、その意味が少し分かってくるんだよ。あのとき原典を読んでいれば何かが違ったかもって」
「ときどき真面目なこと言いますね」
「うるせー。昨日、琵琶の演奏を聴いたときも、『平家物語』の出だしを暗誦していて少しはよかったのかもと思ったしな。どこで何が繋がってくるかわからないから、ただの丸暗記でもしないよりはしたほうがチャンスが広がるんだなって思ったわけ。祇園精舎の~~鐘の声~~」
「だから、祇園精舎はもういいですって!」
たまーに真っ当なことを言う先輩ですが、今日の話もなるほどと思いました。
確かに十代前半で人の世の無常なんて理解できないかもしれないけど、分かる年齢になったら古典に手を伸ばせるように、どんな形であれ十代からそれに触れておく意味はあるんだなあと思ったりしました。
先輩、今日はいいこと言ってますよ。
今号から新連載の朱川湊人氏の「知らぬ火文庫」シリーズは、古い説話や古典に触れるきっかけになるという点でもぴったりのシリーズです。
過去のシリーズの『鬼棲むところ 知らぬ火文庫』では、「安義橋秘聞」をはじめ、鬼にまつわる説話を脚色した全8編を収録。『狐と韃 知らぬ火文庫』では日本最古の説話集「日本霊異記」を、大胆かつ奔放に潤色してきました。そして新しい「知らぬ火文庫」シリーズの第一話「泡沫草子」は、先輩も暗誦していた「ゆく河の流れは絶えずして」の鴨長明『方丈記』をベースとした物語。鴨長明が無常観にとらわれていった事件とある人物との出会いを、哀切感溢れる短編として綴っています。
新シリーズにご期待ください。
「祇園精舎の~~」
「……先輩、まだ語ってる……」
「アラン! それ、やめてくれよ!」
突然後ろから聞こえた先輩の大きな声に、驚いたぼくは50センチほど飛び上がってしまいました。
「なんですか、いきなり大声で! びっくりさせないでくださいよ!」
背中の毛が逆立ったまま言うと、
「お前ときどきそうやって、じーっと壁を見ているけど、何を見てるんだよ! 気持ち悪いからやめてくれよ。いや、何か見えているなら、この際ちゃんと教えてくれ。そこに何かいるのか? 霊みたいなものか? 編集部に地縛霊がいるのか?」
「地縛霊? 何言ってるんです? 編集部に霊がいる噂でもあるんですか?」
「えっ、霊じゃないの? じゃあ、お前いつも、天上や壁の一点を瞬きもせずじっと見てるけど、あれはなんなんだよ?」
「瞬きもせず……? あー、きっとそれは音を聞いていたんですよ。見ていたんじゃなくて」
「音!?」
「はい、たぶん上の階の会議室だと思いますが、大人数の足音が聞こえたもので、つい集中しちゃったんですね。ぼく、じっと見てました? たぶん音に聞き入ってしまって周りが見えなくなってたんですね。すみません」
「そうか……音を聞いてたのか……。気持ち悪いとか言ってごめん。でもお前そんな音も聞こえるんだ。俺はなにも聞こえないけど」
「はい、先輩たち人間の何倍も耳がいいので。さっきは普段より人数が多い足音だったので、なんの会議だろうと思って聞いてしまいました」
「すごいな、お前の耳」
「そうですかね。前にも話しましたけど、匂いも先輩たちの何倍も嗅ぎ分けられますよ」
「やっぱ、すげえな、猫は。人間の何倍も聞こえたり匂いを嗅げたり。あと、めちゃくちゃ身体が柔らかいしな。この前、居酒屋の座敷でアランが寝てしまったとき、とんでもない方向に首が曲がってたけど、あれで平気で寝られるんだよな。あと平衡感覚もすごいし。なんか羨ましいなあ。その能力、分けて欲しいよ。俺が負けてないの、猫背ぐらいかもな」
「いやいや、人間の猫背はよくないでしょう」
……と笑って返しましたが、先輩、この能力があるのも善し悪しなんですけどね。耳がいいぶん、風鈴みたいな人間にとって心地よい音がうるさかったり、人間でもうるさい掃除機の音は何倍も不快に感じるんですから。
でも、確かに自分にない能力は羨ましいですよね。ぼくも人間なみの視力があったら、もっと楽しく暮らせるのになと思います。目の力がもっと欲しい!
「ジャーロ」で掲載されている宮部みゆきさんの「女神の苦笑」シリーズ。運命を司る女神たちも「それは私のせいじゃない!」と言いたくなるほどの偶然の積み重なりが、毎回巻き起こります。その偶然に巻き込まれる人間たちの物語。
今号に掲載のシリーズ最新短編「秘密兵器」は、「特殊能力」の物語。今回の特殊能力は、ただ耳や鼻がいいといった世界を越えた「超能力」です。
ある地方都市の病院に、偶然にもいわゆる超能力を身につけた3人が集まってしまいます。年齢や性別、生活環境が異なる彼らは、しかし自らの力に気づき、それを結集して世のため人のために使いたいと思うのですが、そこは地方の小さな町。力を発揮する事件など起きません。日々、力の修練で虚しく過ごす彼らでしたが、あるときその力を使うべき「事件」が発生して……。
展開の読めないスリリングな物語をぜひお楽しみください。
先日、会社の女性の先輩に、トリックアートの美術館に連れて行ってもらいました。
いや、めちゃくちゃ楽しかったです! 真っ直ぐ立っているはずなのに身体が傾いていると感じたり、部屋に入った先輩が突然巨人に見えたり、クルマが今にもこちらに突っ込んできそうに見えたり。世界がまるで変わりました。
昔からある「だまし絵」の進化形だそうで、実は目がだまされているというより「脳がだまされている」のだそうです。
動物は見たものを機械のように正確に測っているわけではなく、それまでの記憶と照らし合わせて判断しているそうで、その経験による記憶や知識と、実際に見ている知覚とのズレを脳が認識したときに「錯覚」が起こるのだとか。なんだか難しいですが、体感はしっかりできました。ぼくの脳も見事にだまされましたから。
もうひとつ気がついたのが、絵にだまされて、これまで見えていた世界ががらっと変わって見えたとき、なんだかとても気持ちよかったことです。まさに脳が気持ちいい。
見えていたはずなのに、それまでまったく「見えていなかった」ことに気がつくと、どうして見えていなかったんだろうという驚きと同時に、楽しくもあったんです。ちょっと調べて見ると、トリックアートには見るだけで脳を活性化させる効果もあるとか。
やっぱり「絵」の力で目を通して脳に働きかけるから、その劇的な変化が面白いのでしょうか……といろいろ考えていたら、いやいや絵だけじゃないぞと思い当たりました。
いまぼくが勉強中のミステリーだって、それまで見えていた犯罪の様相が探偵の「謎解き」によってがらりとその姿を変えてしまうことを思い出したのです。謎が解かれるあの瞬間はやはり快感以外のないものでもない。これがミステリーにはまる理由なのかと感じていました。
文章でできているミステリー小説にも、トリックアートと同じぐらい見えている世界を変えて脳が快感を感じる力があるのです。
そして、今号から新連載となった石持浅海さんの「座間味くんの推理」シリーズも、まさに世界を変えて見せる力をもっています。
主人公の座間味くんは、石持さんのデビュー第二作となる長編『月の扉』で初登場し、その後、連作短編集「座間味くんの推理」シリーズの主人公として『心臓と左手』『玩具店の英雄』『パレードの明暗』の3冊で探偵役になっています。
その短編の特徴は、既に起きている事件について刑事から話を聞いているうちに、座間味くんの頭のなかにこれまで解決だと思われていたものとはまるで違う推理が浮かんでくるというものです。安楽椅子探偵と呼ばれるタイプなのですが、ただの安楽椅子探偵ではなく、事件の真相から関係者の知られざる人格、隠された真の目的など、世界そのものをひっくり返してみせるのが座間味くんの推理。そしてもう一つのお楽しみが、毎回、推理とともに出てくる様々な飲食店での美味しいお酒と肴の数々です。
「座間味くんの推理」の第4シーズンで、トリックアートのように突然世界が変わって見える脳の快感を感じてみてください。
こんにちは。アランです。
先日、ある映画に連れて行ってもらいました。よくあるアクションたっぷりのサスペンス映画で、とんでもない危機を力を合わせて乗り越えた男女が最後は結ばれるという、お決まりのパターンでした。
連れて行ってくれたのが男の先輩なので、こんなハッピーエンドを観終わったあとも「なんだかな~」という感じ。
「いわゆる吊り橋効果ってやつだろ? あんな出会い方でくっついた二人はすぐに別れるね」と口さがない先輩は、ここしばらく彼女なし(僕を映画に連れて行ってくれるぐらいですからね)。
吊り橋効果って聞いたことあるけど、よく分からなかったので少し調べてみました。
心理学の言葉だそうで、その名の通り、吊り橋の上のような恐怖や不安を感じる場所で出会った相手に恋愛感情を抱きやすくなる現象のことだそうです。
1947年というからもう70年以上も前、カナダの心理学者がある実験を行いました。18歳から35歳までの独身男性を二組に分け、それぞれ揺れる吊り橋と揺れない吊り橋を渡ってもらう。すると橋の真ん中にいた女性に「アンケートにご協力ください」と声をかけられ、その女性から「結果に興味があるなら電話をください」と連絡先を渡されるというもの。揺れない吊り橋を渡った男性からかかってきた電話はわずか1割ほどだったのに、揺れる吊り橋を渡った男性はほぼ全員が電話をかけてきた、という結果です。
このことから恐怖や不安を共に体験した相手に恋愛感情を持ちやすくなる心理効果があると実証され、吊り橋効果の名がついたのだとか。
緊張で心拍数が上がったこと(ドキドキ)を、相手への恋愛感情(これもドキドキ)と錯覚するということですが……うーん、ほんとか? と思ってしまいますね。
この効果を応用して、デートにはホラー映画を観たり、絶叫マシンに乗ったり、お化け屋敷に行けばいいという、怪しい恋愛マニュアルもあるようです。
僕たち猫は高いところに恐怖を感じることはないし、吊り橋効果そのものは難しいです。お化け屋敷は怖そうですが、相手の女子より先に僕が逃げてしまうと思うので、逆効果ですね。
まあ、吊り橋効果で一時的にドキドキしても、日常に戻って冷静になったら冷めてしまうとも言われていますから、先輩の愚痴もあながちはずれてはいないかも。
今号から連載が始まった青柳碧人さんの長編「スカイツリーの花嫁花婿」。
主人公の男性・池原翔一、32歳はとんでもなく落ち込んでいます。付き合っていた彼女に別の男がいることが分かり、別れたばかりなのです。思い返すと、これまで自分よりモテないと思い優越感を抱いていた友人たちが可愛い彼女を作り自分より先に結婚していった。そして彼らの結婚式など、心のなかでは行くのも嫌だった場所からはいつもスカイツリーが見えていた。
その日、“スカイツリーに呪われた男” 翔一は、友人の引っ越しを手伝いにいきます。頼まれてガムテープを買いにでかけた途中、一人の少女に出会い、建物の壁とブロック塀の狭い隙間にいる子猫を助け出して欲しいと依頼されるのです。体を傾け、よじり、なんとか隙間に入り込む翔一でしたが、もう少しで猫に届くかというところで体勢を崩し、そのまま隙間にはまり込んで身動きがとれなくなってしまったのです!
もう一人主人公は来宮めぐみ、27歳の女性。大学の事務職員。彼女は欠勤して自宅のアパートの布団にずっと潜ったままでした。独身だと思い付き合っていた40歳の大学教師に妻子がいることが分かり別れたばかりで、その日、自らの命を絶つことを決意します。最後の入浴を済ませためぐみは、部屋の磨りガラスの窓の外に人影を見つけ、窓を開けてみると……そこにはアパートの壁とブロック塀の間に挟まった男の姿が!
失意のどん底にいる二人の出会いは、こんなとんでもないものでした。吊り橋効果のようなドキドキは生まれようがない形での出会い。しかし二人は(翔一は隙間に挟まったままで)お互いの境遇を話し合っていきます。
こんな出会いに恋は生まれるのか? 青柳碧人さんならではの、一筋縄ではいかないラブストーリーが始まります!
こんにちは。アランです。今回はちょっと真面目にスタートします。
「ジャーロ」ではもはやお馴染みのシリーズに、前川裕さんの「犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル」があります。前川さんのデビュー作である『クリーピー』(日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作)の主人公である高倉孝一が、調査を依頼された事件や、自らが巻き込まれた様々な事件の謎を解き、ときに犯罪者の心をも救うシリーズです。
「ジャーロ」でのこの連載は、既に『クリーピー クリミナルズ』(光文社文庫)として第一弾の短編集が刊行されていますし、第二弾が2020年2月に光文社文庫より刊行予定です。
実はデビュー作の『クリーピー』のあと、『クリーピー スクリーチ』という長編も刊行されていますが、『スクリーチ』の主人公は高倉ではなく、別の人物でした。
しかし、この70号より新しく長編連載が始まる『クリーピー・ゲイズ』の主人公は高倉。つまり「高倉孝一を主人公とする長編作品」ということでは、デビュー作『クリーピー』の、まさに正統な続編となるものです。
高倉が教える東洛大学のゼミ生である千倉有紀が行方不明となります。学習塾のアルバイト講師の募集で面接に行ったまま、帰ってこなかったのです。面接には有紀のボーイフレンドの江田がクルマで送っていきましたが、学習塾の前で降ろしてそのまま引き上げてしまったのでした。
その日から3日後、有紀の母親が行方不明者届を警察に出し、高倉は学生部からの連絡で有紀の失踪を知ります。
一方、高倉の身辺にも異変が起きます。高倉の妻・康子が友人とバス旅行に出かけたのですが、車中で隣に座った男にしつこく絡まれます。鼻の線が歪んだその男は、どうやら高倉のことを知っているような口振りでした。その夜遅く、高倉の家のインターホンが鳴り、ディスプレーにはバス旅行で絡んできた男の顔が大きく映っていたのです。男はドアに体当たりし、うめき声を上げ、激しくドアを叩きます。恐怖でパニックになる康子。警察が駆けつける前に男は消えますが、いわれのない暴力が高倉と康子の周りに直接的に迫ってきます。
その後、有紀の母親に頼まれた江田が事件の相談をしに高倉のもとを訪れます。そして独自に調べていた江田から、有紀が塾だと思って訪れた建物はもともと塾など存在しておらず空き家だったこと、さらにその建物はかつて別の塾として使われていて3年前に経営者が刺殺される事件があったことを知らされます。
事件への介入に気の進まない高倉でしたが、調査を始めると有紀の失踪と類似の事件にたどり着きます。6年前に起きたその事件では、主婦が塾講師募集に応じて一軒家を訪ねたあと行方不明になっていましたが、さらにその夫も自ら調査に乗り出したまま行方不明になっていて、一軒家には夥しい夫の血痕が見つかっていたのです。
高倉はこの類似に嫌な予感を感じますが、それが的中してしまい、有紀の母親も行方不明になってしまいます。
有紀の事件と、3年前の塾経営者刺殺事件、さらには6年前の夫婦行方不明事件にはなんらかの繋がりがあるのか? 高倉と康子の身辺に迫る暴力的な男の目的はなんなのか?
ついに始動した「クリーピー」シリーズ最新長編にご期待ください。
今日のランチは、会社内の自由スペースでとりました(ぼくのランチはいつものカリカリです)。このスペースには社内のいろいろな部署からランチをしにくる人が結構いて、それまで機会がなかった人とも会話できたりします。
今日は隣の編集部の先輩女性編集者と一緒にいたら、先輩と同期の営業部の男性がやってきて、一緒にランチすることに。その営業部先輩が、そうそう、と話し始めました。
「今朝は焦ったよ。取り引き先にいったら、受付で後ろから声をかけられたんだけど、誰だったかまるで思い出せない。いや、顔は覚えているんだよ。間違いなく会ったことあるし、名刺交換もしたと思う。だけど名前が全然出てこなくて。とりあえず、どうもどうもでごまかして、打ち合わせがありますからってさっさと退散したけどね」
すると女性の先輩も、
「あるある。記憶にぽかっと穴が空いたように名前だけ思い浮かばない人。私もこの前、中学の同窓会に出たんだけど、いたんだよ一人、男子で。もともと話した記憶はあまりなかったけど、向こうはいかにも親しげに話しかけてくるんだよね。名前なんだっけ、なんて訊ける雰囲気じゃなくて困ったよ。他の男子が呼んでいるのを聞いて名前は判明したけど。これ、ぎりぎりセーフ?(笑)」
「あー、それいちばん傷つくやつだ。相手の男は名前忘れられてるって、なんとなく分かっちゃうもんだよ。傷ついてるぜ、きっと」
「知らんよ、そんなの(笑)。そういうとき、相手に『すみません、名前教えてもらってもいいですか?』って訊いて、相手が『え? 覚えてないんですか?』って驚いたら『いえいえ! 下のお名前ですって!』『あー、下の名前でしたか、びっくりした』とごまかしながらフルネーム聞き出す方法は、昔からみんなやっているみたいだけどね。でも同窓会でその方法は無理だった」
「そうだよなあ、目が大きいとか色が白いとか、顔の特徴から連想法で名前まで繋がりを無理矢理作って記憶する方法もあるらしいけど、とっさにはできないよね」
ぼくは横から口は出さなかったけど、相変わらず人間って不便ですね。猫は名前とかどうでもよくて、相手の匂いですぐにどの猫か判別できてしまいますからね。
あっ、いま気がついた! ときどきぼくのことを「クロちゃん、クロちゃん」と漠然とした毛の色で呼ぶ人間がいたけど、あれってまさか、ぼくの名前を忘れたの? だとしたら、なんか傷つくなあ。先輩女性の同窓生男子の気持ち、ちょっと分かるかも……。
「ジャーロ」で掲載されている宮部みゆきさんの「女神の苦笑」シリーズは、人々が巻き込まれたあまりもの偶然の積み重なり、連鎖、連結に、さすがの運命を司る女神たちも「そんなの私のせいじゃないわよ」と苦笑するしかないような物語です。
今号に掲載のシリーズ最新短編「ともだちつながり」も、まさに偶然の連鎖。主人公は自分の昔の知り合いであろう人から何度も声をかけられます。でも、先輩たちが話していたのとは全然違うことが主人公に起こります。「顔は覚えているけど名前が思い出せない」ではなく、「顔も名前も、誰だったかまるで記憶がない」のです。それなのに相手は親しく話しかけてくる……。なぜこんなことが起きるのか? 自分の脳に問題でも?
悩んだ主人公の前に浮かび上がってくる真相とは!?
最後は大きな感動が心に残る珠玉の一遍を、ぜひお楽しみください。
「よし、わかった!」
ぼくの席の背中側に座っている先輩編集者が急に大きな声をあげ、ぼくは本当に10センチほど飛び上がってしまいました。声がでかいのはいつものことだけど、マジでやめて欲しい!
振り向くと、先輩は片方の掌をもう片方の握り拳で叩く姿で止まっている。それ、等々力警部ですか? 古いですよ、まったく。
「アラン、ちょっと聞け」
先輩はいきなりぼくを持ち上げると、自分の机の上に乱暴に置くのです。そして顔をぐっと近づけてくる。怖い……。
「ようやく分かったぞ。お前も知っていたほうがいい話だから、まあ聞け。ちょっと長くなるけどな」
なんなんだ、いったい?
「お前も思ったことないか? なんで非モテ系の顔のお笑い芸人があんなに女子人気があって、女優とつき合ったりできるんだって?」
「えっ? いえ、思ったことないです。面白い人たちだなあ、としか」
「まったく、まだまだ人間観察が甘いな。猫だから仕方ないか。あのな、フランスに変わった実験をした人がいるんだ。ブルターニュ大学の心理学者のニコラス・ゲイガン教授という人なんだけど、女性が面白い男性に魅力を感じることを証明しようという実験をしたんだ」
「なんだか怪しい実験ですね……」
「いいから聞け。ゲイガン教授の実験は、バーに一人で飲みに来ている女性60人を対象に、平凡な容姿の二人組の男性を接近させることから始まる。男性二人組は女性客のすぐそばのテーブルに座り、会話をする。二人の会話は女性にはすべて聞こえる距離なのが肝要だ。
男性の一人(ギャグ担当Aとしよう)が冗談を言うと、もう一人(こちらはリアクション担当B)が爆笑しながら『君はいつも実に面白いことをいうやつだな』といった反応をする。
一定の時間、Aのユーモアで盛り上がる会話を二人でした後、片方がトイレに立つ。残ったもう一人はその隙に女性に電話番号を訊き、女性の反応を集計する……という実験を行ったんだ」
「そんなことのために、ずいぶん手のこんだことをしますね……」
「科学とは常にそういうものだ! で、その電話番号を訊く役はAとB、それぞれ半分ずつ、同じ回数とする。電話番号を訊くときの台詞も、AもBもまったく同じことを言うようにする。実験の公平性を保ち、不確定要素を減らしたわけだな。二人とも平凡な容姿の男性にしたのもそのためだ。さて、結果はどうだったでしょーか!?」
うわっ、ウザい……。
「えーっと、バーでいきなり電話番号を訊くなんて、なんかどっちもだめな気もするけど、実験の設問自体が面白い男だから……えーっと」
「はいっ、時間切れー。残念でしたー」
……なんかムカつく……。
「結果を発表しまーす。電話番号を教えてもらえた確率は、『リアクション担当B』が15.4%だったのに対し、『ギャグ担当A』の成功率は42.9%と3倍にもなったのでした! つまり面白い男はモテるということを実証してしまったのだよ、アランくん」
なぜ、あなたが上から目線?
「ゲイガン教授によるとな、ユーモアのセンスは知性や社会性と密接な関連があり、それは恋人を選ぶときにも重要な要素となるそうだ。結果、女性は自分を笑わせてくれる男性を魅力的に思う傾向があるということだ。お笑い芸人がモテる理由がわかったろ。ただし男性側が女性のユーモアについて感じるところは、これとはちょっと違うようだから要注意な」
「はあ……それで『よし、わかった!』でしたか」
「まてまて、早とちりするな。お前も知っておいたほうがいいのは、ここからだ」
ちっ、まだ続くんだ。
「ミステリー小説誌の見習いをやっているんだから、『ユーモア・ミステリー』というジャンルがあるのは知っているよな」
「はい、赤川次郎さんや、若竹七海さんはぼくも大好きで、少しずつ読み進めています」
「そう、日本にも脈々とユーモア・ミステリーの系譜は続いているし、普段はそういう作風でない作家もユーモアに挑むことは結構あるんだ。もちろん欧米のミステリーはウィットとユーモアの本家にふさわしく、圧倒的な作品数が生み出されている。でもな、本来、笑いとミステリーはあまり相性がいいように思えないんだよな……」
おっと急に真面目モードになったぞ。
「謎を解明する論理性の追求と、そのための文章。そして読む者を爆笑させたり含み笑いさせるための文章。これらは相容れないのではと思っていたんだ……」
おー、先輩の顔つきが変わった!
「でもな、ゲイガン教授の実験で分かったんだ」
「えっ、そこでつながるんですか?」
「ああ、そうだ。ゲイガン教授の実験結果は、笑いには人が他人に対して無意識に持っている警戒心を解きほぐす効果がある、ということも示しているとも思う。だからこそ女性は面白い男性に好意をもつ」
「はい」
「ミステリーは、ある意味、著者と読者の頭脳ゲーム。著者は読者を騙そうとし、読者は騙されまいと書かれていることの裏を読む。そのかけひき、闘いにおいて、ユーモアは著者にとって大きな武器となるんだよ」
「そうなんですか?」
「読者は謎を解いてやろうと読んでいても、描写やキャラクターや台詞の面白さに、いつのまにか笑みを浮かべてしまっている。著者はその笑いのなかに、周到に伏線を潜ませ、かつ笑いによって読者の警戒心を解きほぐし、読者の目を伏線から逸らそうとしているんだよ、アランくん」
「なるほど、確かに面白くて笑いながらどんどん読み進めるうちに、伏線を探すのを忘れていたりしますね」
「だからこそ、ユーモア・ミステリーは、ミステリーの大きなジャンルになったんだと思う。気づかせてくれてありがとう、ゲイガン教授!」
「そのことを話していただき、ぼくも先輩にお礼を言いますよ。バカにしていてすみません」
「おい、バカにしていたのかよ……。まあいい、そういうことだから、これから一緒にバーに飲みに行くぞ」
「バーですか? なんでまた急に」
「ゲイガン教授の実験を我々も実証する。とりあえず猫同伴可のバーを探さねばな。それで一人で飲んでる女性がいたら、すぐ横に座る。お前がいると女性に警戒されないし、あとは分かってるよな。俺の話にはすべて大爆笑すること」
いや、先輩のユーモアって全部おやじギャグだから、爆笑どころか愛想笑いも絶対無理!
先輩のおやじギャグは放っておいて、今号(67号)より東川篤哉さんの大人気ユーモア・ミステリー「烏賊川市シリーズ」の新連載が始まりました。しかも待望の長編作品です!
現代のユーモア・ミステリーの第一人者である東川作品の柱のひとつが、この「烏賊川市シリーズ」で、架空の地方都市・烏賊川市を舞台に、探偵事務所を営む鵜飼杜夫、鵜飼に助けられてから弟子として事務所で働く戸村流平、さらには事務所のビルの管理人の二宮朱美、烏賊川市署の砂川警部などが、次々と巻き起こる事件に挑み解決していきます。
ふんだんに織り込まれたギャグと、伏線を見事に回収し鮮やかに謎を解く本格ミステリーが融合した超人気シリーズです。
これまで、長編5作、短編集3作が刊行されていますが、ついに待望の第9作が長編で連載開始です。
一人一人のキャラクターとその掛け合いは爆笑必至。そしてもちろん魅力的な謎と見事な解明が読者の皆さんをお待ちしています!
「猫と犬は生まれながらにして仲が悪い」と、よく言われます。世の中には犬と仲のいい僕の仲間もいるらしいので絶対そうだとは決めつけられませんが、僕はやっぱり犬がかなり苦手です。なにより、彼らのあの距離感がどうもダメで……。
犬が好きだという猫の仲間にしても、たぶん小さい頃から同じ家で犬と育ったからで、きっと好きな犬もその相手だけに限られる気がしますけどね。僕はこれまで犬と同居したことがないし、どう考えても、これから同居するのはちょっと無理かなあ。
そんな僕ですが、「ああ、これは偉いな。とても勝てないな」と思う犬もいたりします。
盲導犬と警察犬です。
盲導犬がいかに人間に対して献身的か、そして本来は持っているいろいろな欲求を我慢しているか、電車や道や公共の場所で彼らを見るだけでも十分伝わってきます(もちろん、僕らの見えないところでも彼らは頑張っているはず)。あの献身と忍耐心はとても真似できません。
警察犬のほうは、普段はなかなかその活躍を目撃することはありませんが、犬たちが持っている能力をフル活用して貢献しているようです。
なんといっても彼ら犬たちの嗅覚ですね。人間の100万倍~1億倍ともいわれる嗅覚は、嗅ぎ分ける匂いによって倍率は異なるそうですが、いずれにしてもとんでもない能力です。人間よりは鼻が効く僕たちも、とてもじゃないですが犬には勝てません。
この鼻をの能力や、あの牙の戦闘力で、彼らは警察犬として頑張っているんですね。
ちなみに警察犬には、各都道府県警察が飼育管理し訓練をしている「直轄警察犬」と、一般の人が飼育管理し訓練をしている「嘱託警察犬」がいるそうです。
「嘱託警察犬」は、毎年、各道府県警察が審査会を行い、応募してきた犬を選考しています。とてつもない倍率を見事に勝ち抜いた犬だけが警察犬になれるのです。
かつて試験に6年連続で落ちながらも、そのひたむきな姿が広く愛され、映画にもなった香川県警の「きな子」も、この「嘱託警察犬」でした(ラブラドルレトリバー。2017年に永眠)。僕の先輩の女性編集者も、当時は「きな子」の試験の結果を追っていたと言ってましたから、やっぱりレトリバーは人間に愛されるんですね。ちょっと嫉妬してしまうくらい。
警察での活躍のあと引退した警察犬は、直轄警察犬は国が所有しているという扱いになるため、基本的に施設内で余生を送るそうです。でも、警察犬訓練所が所有・飼育し訓練した犬の場合は、ときには一般家庭の里親に引き取られることもあるそうです。
いずれにしても、それだけ頑張った犬たちには幸せな余生を過ごして欲しいと、種の違いを超えて僕も思います。
今月号から新連載する近藤史恵さんの〈元警察犬シャルロット〉シリーズ。以前第1シリーズが「ジャーロ」に連載され、『シャルロットの憂鬱』として単行本が刊行されています。その待望の第2シリーズがついにスタートします!
元警察犬のシャルロットはジャーマンシェパードの雌(ジャーマンシェパードは警察犬では最もポピュラーな犬種だそうです)。
シャルロットは数々の難事件を解決した名犬でしたが、股関節の障害から四歳で引退。子どものいない池上夫婦が里親となり、警察とは関係の無い普通の生活を始めます。警察犬だっただけに、シャルロットはしつけができていて、とても賢い。ただ、賢いということは、ある面狡さにもつながり、ときにとんでもない悪戯っ子の面も見せます。
体重は25キロを超え、見た目は怖い大型犬だけど、中身は大人しく気のいい女子犬――そんなシャルロットが、池上夫婦とともに、愛犬家仲間やご近所で巻き起こる謎を、元警察犬の能力をフル活用して解決する傑作コージーミステリーです。
第2シーズンではどんな謎が池上家に降りかかるのか。お楽しみください!
ちょっと調べてみたのですが、かつてトイプードルやチワワまでもが警察犬になった例があるとか。大型犬だけだと思っていたのに、小型犬もなっていたなんて、猫としてはかなり悔しいです。
きちんと捜査する「警察猫」がいないのは体が小さいからだ――という言い訳が通じなくなってしまいます。
『女には向かない職業』というミステリーがありましたが、警察は「猫には向かない職業」なのでしょうか……。
人間界のある説によると――まず猫には人間に褒められたいという欲求があまりない。さらには、猫は叱られても反省をしない。これらのことから秩序と忍耐が求められる警察の仕事は、マイペースな猫には向いていない――ということです。
要するに猫は好きなことしかしないから警察は無理だよってことでしょうか。なんとなく納得してしまうような、釈然としないような。
そこでさらに調べて見ると……いました! 僕の仲間にも「警察」の仕事をきちんと務めた「名猫」が!
その名はルーシク。ロシアのカスピ海沿岸の町スタヴロポリで野良の子猫として生きていたルーシクは、検問所に保護されます。野良時代は、密漁者から押収された魚の切れ端を食べていましたが、そのため(密猟者が狙う)チョウザメやキャビアに対して非常に敏感な嗅覚を持っていて、保護されてからも自ら密漁された魚を探しに行くようになるのです。その探知能力は検問所に配置されていた警察犬を凌ぐもので、ついにはその座にルーシクがつくこととなり、2003年「密輸魚探知猫」が誕生したのです。
ですが、いつも通り車の匂いを嗅いで密輸魚を探していたある日、その車から降りたところを突然動きだした別の車に轢き殺されてしまいます! ルーシクがあまりに優秀だったため密漁マフィアに「意図的に殺された」というのが警察の見解だそうです。
とても悲しい最期ですが、僕たち猫も警察の仕事をちゃんとできることを証明してくれた、立派な先輩です。
僕はルーシクのような仕事はまずできないけど(我慢が足りないと編集長からいつも怒られてますからねえ)、その分、種を超えてシャルロットの活躍を楽しみたいと思います。
またもウチのおじさん編集長の話で恐縮です。
12月に入ると編集長がやたら言い始めるのが「もう年末かよ。1年が早えなあ。ついこの前『明けましておめでとう』って言ってたのにな」というセリフです。
いやいや、1年前の正月が「ついこの前」ってことはないでしょう。惚けてるのか、酒の飲み過ぎなのか。
ただ、飲み過ぎ編集長の口癖は置いておいても、確かに「大人になると時間の進みが早くなる」という言葉は、よく聞きます。時間の進み方は一定のはずなのに、なんで「大人の時間」と「子供の時間」に差ができるのでしょう。
「ジャネーの法則」というものがあるそうで、ある一定の時間がそれを感じる人間の年齢によって主観的に捉えられるというものです。簡単に言うと、同じ1年でも10歳の子供には人生の10分の1だが、60歳の大人には人生の60分の1。つまり、「10歳の子供の1年」と「60歳の大人の6年」がイコールになるので、大人ほど時間の経過が早く感じるという考えです。
でも、これはちょっと単純化し過ぎているような気もしますね。実際にはそこまで差があるようには感じていないと思いますし。
別の説によると、大人は経験を積んでいるから、何か出来事が起きても知識と経験に照らして対応できる。つまり大人にとって「新鮮な体験」はほとんどないので、予想通りの時間が単調に過ぎていき、時間の経過を意識しなくなる。
一方、子供は毎日がイベントのようなもので、新しい刺激が日々連続して起きます。時間あたりに触れる情報の密度が高くなり、その時間を長く感じる。
この差を知覚時間差異と呼ぶそうで、初体験の出来事は人間の意識を時間に向かわせ、それにより時間を長く感じさせる効果があるとのこと。子供のころ遊園地に行くなどの明日のイベントが待ち遠しい(時間が長く感じる)のは、この「時間の流れに意識が向かう」からだとか。
これも、逆のことがいえるような気もします。子猫のころは(僕にも子猫の時期はあったのです!)見るものすべてが驚きで夢中になり(初体験)、その結果、説とは逆に時間に意識が向かわず「楽し過ぎて時間があっという間に過ぎちゃった」と感じろこともあります。また、今の僕は編集長が酔っ払って説教しているときなどは、「早く終わらないかな」と何度も時間を見てしまい、時間に意識が向かった結果、とてつもなく長く感じることもままあります。こういう逆の感じも体感していて、先ほどの説は逆だと思ったりもします。
原理はピタッとはまるものはないですが、それでも「大人の時間」と「子供の時間」は流れのスピードが違って感じられるというのは感覚だけは納得できます。
そして時間の流れ、スピードが違えば、見えている世界も大人と子供ではきっと違うのでしょうね。
大人にとっての「ごく普通のこと」「日常的なこと」「当たり前のこと」が、子供にとっては「謎に満ちた不思議なできごと」であったり……。
今月号から新連載する大崎梢さんの〈岸辺のあとさき〉シリーズは、そんな「子供が見た大人の世界の謎」が繰り広げられます。
地方の小さな町である白沢町に住む小学4年生の琴美。彼女の家は、祖父と父と母、3歳年上の兄という5人家族で、祖父は農業を営み、父は地元の発電所に勤めています。自然に囲まれた環境で、同級生のミツくんやチカちゃんと、琴美は毎日楽しく暮らしています。
ある日、父が昔お世話になった人の息子が、祖父の農業を短期間の臨時雇いで手伝うため住み込むことになります。彼の名は〈佐野くん〉。雑誌ライターで、日本各地の古い言い伝えや昔話を調べているとか。
琴美が見た〈佐野くん〉は、30歳を超えた年齢ながら、手足が長くて細く、顔立ちはすっきりしていて、しゃべり方も言葉遣いもおじさん臭くない知的な男性。そんな〈佐野くん〉に、学校で起きた幽霊事件を相談したことから、〈佐野くん〉は琴美たち仲間にとって「名探偵」ともいえる存在になるのです。
そして琴美たちに降りかかるさらなる「大きな謎」。名探偵の〈佐野くん〉は、琴美たちのためにその謎を解いてみせてくれるのか!?
大人たちが作り出す「世間」とは、子供たちから見ると「大きな謎」に満ちた世界なのです。
シリーズ第1話「願いごとツユクサ」をぜひお読みいただき、その刺激あふれる世界に遊ぶことで、もう一度「子供の時間」を取り戻してみてはいかがでしょう。
おっと、編集長が僕を呼んでいます。
「おい、アラン。お前にちょっと言って聞かせたいことがある。とりあえず飲みにいくぞ。話は店で言うから。いいな?」
編集長は今夜も「大人の時間」に生きるようです。付き合わされる僕が「子供の時間」を取り戻す日はまだまだ先ですね……。
こんにちは、アランです。突然ですが、このページをお読みの皆さんは「不幸の手紙」というものをご存じでしょうか。
今号(66号)の「ジャーロ」に、澤村伊智さんの「死神」という短編小説が掲載されています。その原稿を編集長から受け取り読み始めたてすぐに、この「不幸の手紙」という言葉に出会ったのです。
実は僕はまったく知りませんでした(どうやら昭和時代の言葉のようですし)。これはとにかく、この言葉をしっかり理解しないといけないなと考えた僕は、一つ上の階の編集部にいる、ある先輩を訪ねました。僕がこっそり「昭和の師匠」と呼んでいる先輩で、昭和時代のマンガや小説の初版本、おもちゃやプラモデルなどをコレクションしていて、カラオケに行けば歌うのは昭和歌謡曲ばかりという人です。
上の階を探してみると、ちょうど休憩室でお昼を食べようとしているところを見つけたので、僕も自分の机からお弁当を持ってきて先輩の横に座りました。ちなみに、このところ栄養が偏っているなと感じていたので、その日の僕のお弁当は「カリカリ」です。
「先輩、『不幸の手紙』って知ってますよね? どんなものだったんでしょう? ……ガリッ、ボリッ」
カリカリを奥歯で噛み砕きながら尋ねると、
「『不幸の手紙』ねえ。懐かしいなあ! まあ、アランは知らなくて当然だろう。ある日突然、家に手紙が届いて、そこにはだいたい
〈これは不幸の手紙です。この手紙と同じ文章を1週間以内に5人に送ってください。さもないと、あなたに不幸が降りかかります〉
なんてことが書いてあるんだ。日数と人数はその時々で違うし、細かい文章も違うものがあるらしいが、内容は押し並べてそんな感じだ。俺の学校にも届いたやつがいたよ。他の人に手紙を出したかどうかは分からなかったけどね」
とコンビニのお弁当のフライを食べながら教えてくれます。
「いったい、なんでそんなものが届くんです?……ガリッ」
「まあ、悪戯といえば悪戯だな。昭和40年代に全国的に流行って、その後、マンガの『恐怖新聞』や『ドラえもん』などでもネタになっているから、昭和を代表する不思議な流行といえるね」
「変なものが流行ったんですね。悪戯……ですか……」
「そう、その後も下火になることはあったけど、『不幸の手紙』の系譜は続いているといえるかもね。20世紀末には『棒の手紙』というのが話題になったし」
「なんですか? 『不幸の手紙』ではなく『棒の手紙』って?」
「単純な書き間違いが広がって定着したと言われているものだね。まず、あるとき誰かが『不幸』を『木奉』と書いてしまった。これは誤字であると同時に、字が下手で二文字が一文字に見えてしまったんだろうね。その後、その二文字が一文字に合体して「棒」になってしまい、最終的に『不幸の手紙』ならぬ『棒の手紙』が生まれてしまったらしい。これを見ても、『不幸の手紙』が悪戯以外のなにものでもないと分かるね」
と、ご飯を頬張りながらの説明だから、ちょっと声が不明瞭だったけど、意味はだんだん分かってきました。
「で、時代が変わって、『不幸の手紙』は『チェーンメール』に姿を変えていった」
「『チェーンメール』? また知らない言葉です……」
「そうだよな、アランは生まれて何年も経っていないから知らないよな。メールが広がった時代の話だよ。インターネット上で不特定多数の人にメールの転送を要求するメールを『チェーンメール』と呼ぶんだけど、紙の手紙の時代と比べ、ネットだから広がる範囲も速度も段違いになったんだ。『これは困っている人を救うためのキャンペーンです』といった、一見善意のものに見えるものもあったけど、ほとんどが人の恐怖心を煽って短期間に多くの人にメールを転送させる、まさに『不幸の手紙』と同じものだった」
「手紙ではなくメールだと、転送するのが楽になりますから、広がりも大きかったでしょうね」
「そう。そしてその後、SNS時代がやってきて、『リツイート』などの機能は『不幸の手紙』や『チェーンメール』の後継たる存在になりうると思う」
「先輩、昭和だけでなく、平成のことも知ってるんですね! 驚きました!」
「おまえ、馬鹿にしてんのか。一応、人生の半分以上は平成に生きているからな」
(その平成も、もう終わりになりますけどね……)
「しかし、どんなに広まっても、悪戯に過ぎないですよね」
「いや、実際にいろいろな被害が起きているんだよ。『チェーンメール』では銀行取り付け騒ぎや新潟県中越地震でのデマの拡大があったり、東北地方太平洋沖地震でもメールやSNSでデマが拡散し風評被害が起きている。悪戯どころではない、洒落にならない実害だ。だから総務省のホームページでは『チェーンメールを受け取った際は、転送は止めてください!』というページまで作って注意を呼びかけている」
「マジですか!? 確かに洒落にならないレベルになっているんですね……。それにしても、『不幸の手紙』を最初に送った人間には悪意があるのかもしれませんが、受け取った人が止めれば済むことですよね。人間ってときどき不思議な行動をとりますよね」
「厳しいこと言う猫だな。まあ、アランの言う通り、人間の弱さなのかな。手紙を手にして、まずこれは悪戯だろうと思うんだけど、心のどこかに『もしかしたら……』と思う部分もある。『もしかしたら交通事故に遭うかも』『もしかしたら家が火事になるかも』……なんの根拠もない不安だな。だけどその不安をゼロにすることはできない。そして自分が不安から逃れるためなら、他人に『不幸』を押しつけてもかまわないと考えてしまう人間は、案外多いのかもな」
ブロッコリーを箸でつまんだまま、宙を見て思いに沈む先輩。余計なこと言っちゃったかな。
「さっき先輩が言ったように、手紙ではなくメールやSNSに変わって、他人に送ることの作業面でハードルが下がった分、そういう弱さに陥りやすくなるかもしれませんね」
僕もカリカリの食べかけをそのままに、なぜか先輩の見据える宙を一緒に見てしまうのでした……。
冒頭でお話しましたように(覚えていますか?)、今号(66号)の「ジャーロ」の、澤村伊智さんの「死神」では、「不幸の手紙」といえる現象が現代に起こります。ただ、そこは澤村伊智さんのこと、ただの「不幸の手紙」ではありません。他人に押しつけないではいられないもの。それはいったい何か!? 第22回日本ホラー小説大賞を受賞したデビュー作『ぼぎわん』が最近映画化もされた澤村伊智さん。「不幸の手紙」をモチーフにしても、ただものではない物語が展開します。現実にある世界が少しだけずれることで、現実ではなくなってしまうような、足下が揺さぶられるような恐怖をぜひお読みください!
「昭和の師匠」と呼んでいる先輩。なんだか僕が思っていたより、いろいろことを教えてくれるかも。これからもたまに、お弁当のカリカリを持ってお昼を一緒に過ごそうかな。
編集部が忙しくなるお昼過ぎ、今日も今日とて全員が黙々とパソコンやゲラに向かっていました。
すると、ぼくの背中側に座っているいつもの先輩編集者(おじさん)がおもむろに振り返り、ぼくに向かって 「アランくん、昨夜はずいぶんとお盛んだったようだね。アタックしたお相手は可愛い子猫ちゃんかい? でも結果は残念だったようだ。手酷く振られたってわけか。でも恨んじゃいけないよ、まして意趣返しなど考えちゃだめだ。当たって砕けたとしても、笑って耐えてみせるのが美学ってもんだよ」
「は? なに言ってるんですか? 意味が全然分からないんですけど。あと、なんですか、その古臭い昭和的な言い回しは?」(“アランくん”なんて、普段絶対言わないし)
「隠さなくていいって。私の目と耳、そしてこの脳がすべてをお見通しなんだから」
「だから、なにを見通したっていうんです?」(人差し指立てて、チッチッチとか振らないでくれって)
「それほど聞きたいなら語って聞かせよう、きみの昨夜の行動を。まず、その声、やけにかすれているじゃないか。昨日はなんともなかったから、そこまでかすれ声になるには昨夜ずいぶんと大きな声を出し続けていたに違いない。そう、きみたち猫が夜に出す求愛の鳴き声のようにね!
さらにきみの後ろ足の爪に引っかかっている繊維。柄ものの生地のようだね。私が見るところ、カーテンの生地だろう。それも女子が好みそうな可愛い柄だ。アランくん、きみは子どものころから驚くと、高いところに駆け登る癖があると話していたことがあったね。そう。きみは昨夜何かに激しいショックを受け、高いところへ駆け登った。たとえば雌猫にこっぴどく引っ掻かれて驚きカーテンを駆け登るように。カーテンレールまで登ったんじゃないかい? その繊維はそのとき爪に残ったものだ。
まだあるぞ。きみが朝から執拗に繰り返しているグルーミング(毛繕い)。いつにもまして激しくやっている。それはきみたち猫が過剰なストレスを感じている証拠。昨夜の出来事は相当こたえているようだね。さらにいうと、グルーミングは特に一点に集中している。そこじゃないかい? 昨夜子猫ちゃんに引っかかれた場所は。
最後に決定的なことを言ってあげよう。私は耳にし、見てしまったんだよ、きみが『ふられるとは』と呟いたあと、『しかし甘いな』と顔を歪めているのを。いいか、どんなに悔しくてもレディに意趣返ししようなんて思ってはいけない」
「………………」
「ふっ、ぐうの音も出ないようだね、私の完璧な推理が導き出した答えに。ちなみに、ぐうの音の『ぐう』は息が詰まった音を表している」
「はあ、あまりのアホさに声もなかっただけですよ。ある意味、息が詰まるほど馬鹿らしい推理ですよ。名探偵気取りなんでしょうけど、いったい何を読んでいるんです?」
「うるさい。私の推理のどこがおかしいって言うんだ」
「説明しますとね、声がかすれているのは、Y先輩(女性)に夜中までカラオケに付き合わされたからです。ふられたのはY先輩のほうで、やけカラオケです。なんならY先輩に確認してもらっていいですよ、でもふられたのか訊いたら、それこそ引っかかれそうですけどね。
爪に引っかかっていた繊維ですけど、今見たら、ハンドタオルですね。さっき給湯室でアイスカフェオレを手にした他の女性とぶつかりそうになって、カフェオレが少しぼくの後ろ足にかかってしまったんですよ。その女性がハンドタオルで拭いてくれて、そのとき繊維がついたんですね。あと念入りに毛繕いしていたのは、そのカフェオレがかかってしまった所です。まだ少しガムシロがべたついていて思わず『甘いな』と言っちゃったんでしょうね。それから顔を歪めたとしたら、たぶんぼくはコーヒーの匂いがとても苦手だからですよ。
先輩、これこそが“真相”です!」
「う……アラン、腕を上げたな……いや、試してみたんだよ、お前にミステリー力がどこまでついたかをな。ははは……」
(いつのまにか普通の話し方に戻ってるよ、先輩)
「で、先輩、何を読んでたんですか? 絶対いま読んでいる本に影響されたんですよね」
「え!? 読んでいる本? まあ、これだけどな。この前お前に貸したハリイ・ケメルマンの『九マイルには遠すぎる』。返してくれたあと、懐かしくて読み返していたんだ」
「あー、それでですね。ぼくの言葉の断片から推理しようなんて思ったのは」
ハリイ・ケメルマンの『九マイルには遠すぎる』は、ロジックの積み重ねだけで解決にたどり着く本格ミステリーの見本のような短編作品です。ニッキイ・ウェルト教授は友人がたまたま耳にした「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない。まして雨の中となるとなおさらだ」という会話の台詞から、純粋な推論だけである犯罪の真相にたどり着いてしまうのです。
アクロバティックな論理的思考は、安楽椅子探偵の代表的な作品であり、後のミステリー作品に多大な影響を及ぼしたと聞いています(実際ぼくも読んでみて毛が逆立つほどの驚嘆の推理でした)。
とことん影響されやすい単純な先輩は置いておいて、この美しい論理の積み重ねは今号の「ジャーロ」でも楽しめるんです!
西澤保彦さんの「エミール」シリーズは、私立〈迫 扇 学園〉高等部に在籍するジャンク映画好きの柚 木 崎 渓 が、大食いで本好きの美少女エミールこと日 柳 永 美 とともに推論を重ね、解かれないままになっている謎を読み解いていく短編シリーズです。
今号の「ライフ・コズメティックス」でも、昭和に起きた四件の殺人や変死事件の新聞記事をも元に、それぞれの事件の真相と四つの事件の繋がりについて、二人は論理だけで近づいていきます! 『九マイルには遠すぎる』を彷 彿 とさせる驚きの展開をぜひ堪能してください。
先日、隣の編集部のおじさん……じゃなくて先輩編集者に、バブル時代について話を聞いていたのですが(バブル期、先輩は20代の若手編集者だったようです)、そのなかで「おやじ狩り」という言葉が出てきました。ぼくは全然知らない言葉だったので訊いてみると、1996年ごろに流行した言葉で、10代の少年たちが大人の男性を襲って金品を奪う事件が連続して起こったことをいうそうです。しかし人間の事件で「狩り」って、ちょっと過激な言葉ですよね。
事件の頻発は早めに沈静化したそうで、おやじ狩りという言葉もすぐに使われなくなったとか。確かにおやじ狩りとは聞かなくなったし(ぼくはまったく知りませんでした)、事件が頻発することもなくなったとは思いますが、実はそれ以前もそれ以後も、同じような事件はずっと存在している気がするんですよね。「おやじ」を集中して狙わなくなっただけで。
「おやじ狩り」では、少年たちには罪の意識はまったくなく遊び感覚だったそうで、それはそれで恐ろしいことですが、暴行と金品を狙ったものでした。でもその後、現在に至るまで、やはり罪の意識が無いまま殺人にまで至る事件をよくニュースで見るように感じます。
すごく気になったので、データを調べてみると、いくつか見つかりました。
警察庁が出している「平成28年の犯罪情勢」という資料のなかに「通り魔殺人事件の認知・検挙事件数H19-H28 の推移」というデータがあります。
平成19年から28年までの「通り魔殺人」の件数は
H19 8
H20 14
H21 4
H22 5
H23 6
H24 7
H25 8
H26 8
H27 9
H28 4
となっていました(右数字が件数)。
平成20年が飛び抜けて多く、その翌年はぐっと減ったものの、その後は微増傾向もしくは横這いが続いています。
また、法務省が平成25年に出した「無差別殺傷事犯に関する研究」という資料では、「無差別殺傷事犯の特徴」として「ほとんどが男性で、年齢は20歳~39歳を中心として構成され、一般殺人と比べると低め」「犯行時に、交友関係や親など家族関係は希薄。異性の交際相手がいる者はほとんどいない」「経済状況も困窮し社会的に孤立している」「自殺企図など犯行前に何らかの問題行動が認められる」「単独犯で、共犯はいない」といったことが挙げられています。
これらはぼくが要約したものですので、資料ではもう少し詳しい特徴付けがなされていますが、いずれにしても、これらの特徴に当てはまる人はたくさんいるはずだし、実際に犯罪を起こす人はごくごく一部の人ですので、この資料を鵜呑みにはできない気がします。
いや、ぼくだって当てはまることがいくつかありますし、こういう分析自体もちょっと怖い気がしますね。
ただ、ぼくたちは日々、こういった事件に遭遇する危険と隣り合わせで生活しているんだっていうことは分かりました。無差別無目的に解放される暴力衝動は、すぐ隣にあるかもしれないんですね……。
いつになく真面目になってしまいましたが、先輩も気をつけて欲しいです。あまり酔っ払って危ないところをふらつかないで欲しいですよね。
今号に読み切り短編「成敗」を掲載している曽根圭介さん。理不尽な暴力、不条理なまでに人間を追い込む恐怖、そして物語に仕掛けられたどんでん返しやトリックで、読むものを最後に驚かせる作品を生み出し続けていて人気です。
今回の「成敗」は、かつて妻に裏切られ、捨てられ、作家としでデビューした妻の作品のなかで自分の虚像を創られ人生を壊された男が主人公。極度の不眠症に悩み、妻へのストーカーまがいの行為が止められず、グループセラピーを受ける男に、同じセラピーを受けていた女が声をかけます。
「自分を変えたいなら、連絡して」
そのときから男は、ある一線を踏み越えていくのですが……。
日常のなかに無軌道な暴力が潜むこの時代を的確に描き出し、読後にはしばらくページを閉じられなくなる一編です。ぜひお読みください。
「やっぱ、別れるとき何を言い、どう行動するかだよなあ」
編集長が壁を見ながら、なにやらきな臭いことを言っています。
「格好いいセリフをキメて振り返らずにいるか、あるいは去って行く彼女を黙って見送るか……」
もしかして、相当ヤバい状況!?
「編集長、ついに奥さんに見限られたんですか? とにかく、とことん謝りましょう。そりゃ、編集長が悪いに決まっていますが、謝って謝って謝り倒せば、奥さんもほだされるかもしれません。捨てられたら次は絶対ないですよ」
「へっ? アラン、なに言ってんだ? ウチは安泰、問題なしよ。この前も小遣いアップに成功したしな」
「でも別れるとか、去って行くとか、捨てられるとか……」
「あー、さっきの独り言ね、聞こえちゃったか……捨てられるなんて言ったっけ? まああれは、昨日の休みに久しぶりに観たDVDのことを思い出してたんだ。大好きなイングリット・バーグマン様の映画をね」
「バーグ……マン。なんだか美味しそうですね」
「お前はやっぱり知らないか。食べ物じゃないぞ、スウェーデン出身の往年の名女優だ。その気品溢れる美貌は知性的でいて、笑顔からは内面の繊細さと優しさが滲み出てくるようなんだ。あの瞳、あの唇……見てみる? 見たいでしょ?」
とスマホでモノクロの写真を見せてくれたのですが、顎の下に手をあてて微笑むバーグマンさんはいまどきの美人とはちょっとタイプが違うけど、整った貌の存在感は確かに名女優と言われるオーラがありました。
「もちろん俺もリアルタイムで観てきたわけじゃないけどね、『別離』『カサブランカ』『誰が為に鐘は鳴る』『ガス燈』、ヒッチコック監督の『汚名』などなど、気がついたらDVDをコレクションしていたな」
「あ、『カサブランカ』は聞いたことあります」
「そうか。『カサブランカ』と『誰が為に鐘は鳴る』は俺的にツートップで、昨日もその二本立てで観たんだ。『カサブランカ』での相手役はあのハンフリー・ボカートだ。ボギーっていう呼び方ぐらいは、アランも聞いたこあるだろ?」
「ええ、編集長がいつもカラオケで歌う沢田研二の『カサブランカ・ダンディ』で、ボギーの名前を絶叫してますよね、変な踊りをしながら」
「……そんなに歌ってたか、俺? よく覚えてないが……とにかく、時代は第二次大戦中、親ドイツのフランス・ヴィシー政権が統治するモロッコの都市カサブランカで、かつてパリで愛し合った男女が再会する。しかしその時の彼女はドイツ抵抗運動の指導者と結婚していた。彼女は夫を逃がすために男に協力を依頼してくるんだ。ラストがどうなるか自分で観て欲しいけど、とにかく『離れないと約束したわ』と言って別れたがらない女に、男、つまりボギーは言うんだな『君の瞳に乾杯』と!」
「あ、それも知ってます。酔った編集長がよく他の女性客に向かって言ってるやつですね」
「……そんな昔のこと覚えとらん!……とにかくこのセリフは映画のなかで合計4回も言う決めゼリフなんだが、俺的にはこの最後の場面のがいちばん好きだな」
「だから相手に無視されてもしつこく言ってるんですね」
「…………で、『誰が為に鐘は鳴る』のほうだけどな、これはヘミングウエイの原作で、ヘミングウエイもまたバーグマンに惚れ込んでの映画化だったんだ。相手役はご存じゲーリー・クーパー……知ってるよな」
「聞いたことがあるような……」
「知らないか。まあいい、ボギーとはタイプが違うが、これまたすこぶる付きのいい男だ。これも第二次大戦中のスペイン内戦が舞台で、反ファシスト軍として内戦に参加した男=クーパーがある戦闘でゲリラに協力を求め、そこでファシストに両親を殺された女=バーグマンと出会い、恋に落ちるってえ寸法だ」
「編集長、口調が変です」
「ま、その後いろいろあるんだが、この作品も絶対自分で観てくれ。とにかく男は瀕死の重傷を負い、敵に追われながらの撤退戦となって、最後に独り敵に立ち向かおうとする。そのとき女に向かって言うセリフが『さよならはなしだ。これは別れじゃないんだから』だ。く~~、こいつはたまんねえな、ちきしょうめ!」
「編集長、また口調が変です」
「この二作品は、なんと言ってもラスト・シーンだ。そのときの行動とセリフだ。男と女が極限状況のなかで出会い、やがて迎える別れ。そのときの振る舞いこそ、格好よさが問われる。そしてそこにはバーグマン様がいなくてはならない、彼女でなくてはダメなんだ!」
「と、とにかく、その二作品観ますので、DVDを貸してください」
「おうともよ!」
(やっぱり口調が変だ)
編集長の暑苦しい……ではなく、熱いお勧めによって名画二本を観ることにしましたが、その感想は別の機会に。確かに極限状況で出合う男女というシチュエーションには、ちょっと憧れます。でもね、編集長。今号の「ジャーロ」にも、刹那だからこそお互いの本質を理解し合う、そんな二人はいるんですよ。
「ジャーロ」62号より連載が始まった芦辺拓さんの「幻燈小劇場」は、ある劇場に長年出演している老俳優の「私」が、自ら企画・演出・主演する舞台のために、謎の人物として記憶に残る親戚の「おじさん」の思い出と足跡を辿り始めます。手がかりは、おじさんが使っていた革張りのトランクとその中身。ところが調べれば調べるほど、おじさんの人生は波瀾万丈であることが判明し、様々な事件を掘り出すことになり、おじさんの謎は深まる一方。
連載第4回になる今号の「おじさんと欧亜連絡国際列車 」は、タイトル通り、アジアとヨーロッパを結ぶ路線(途中で船も利用)が舞台。こんな壮大な路線が第二次大戦前にあったとは知りませんでした。そして「私」は偶然見つけたあるものから、おじさんがかつてその路線を利用していたことを知ります。そこには、おじさんと別の人物の人生が交差する瞬間があって……。
編集長が言っていたボギーのように格好いいおじさんに辿り着いた「私」。そこで何が起きたのか、ぜひお読みになって確認してください。
「さて、今日はこれぐらいで店じまいにして、出かけるから」
「編集長、今夜も酔い過ぎないように。あと周りの女性に変な言葉をかけないように。今時そういうことすると捕まりますよ」
「そんな先のことはわからないよ、ってか」
やっぱり変な口調で背中越しに言うと、『カサブランカ・ダンディ』をハミングしながら、能天気なおじさんは編集部を出ていきました。
「たまにはちょっと一杯いこうか?」
「ジャーロ」の校了がすべて終わって編集部がほっと一息つき、机まわりを片付けながら部員それぞれが開放感に浸っていた夜、珍しく編集長が皆を誘ってきました。
見習いの立場ながら、ぼくも連れて行ってもらえることになりましたが、編集長のお誘い(おごり)である以上、行き先はお洒落なお店であるはずもなく、予想通り近所の安い居酒屋でした。
皆が“生 中 ”のジョッキをぐーーっと傾けて「プハーッ」と幸せそうな顔で息を吐き出すのを、ぼくはお水を舐めながら眺めていました。ぼくはお酒が一滴も飲めないんです。「仕事の付き合い上、少しぐらい飲めたほうがいいんだが、体質なら仕方ないな」と編集長は言ってくれますが、体質というか、生物の「属」の問題というか……とにかく飲んだら倒れてしまうので居酒屋でも深皿に入ったお水をもらいます(コップだと舌が水に届かない)。でも編集長や先輩たちの話を聞くのは好きなので連れて行ってもらっています。
(前から気になっていたのですが、「生ビールの中ジョッキ」のことを“生 中 ”と言う人と “中 生 ”と呼ぶ人がいます。どっちが正しいのでしょうね?)
先輩たちのジョッキがビールからチューハイに変わり、会話も様々な方向へ飛びまくってきたころ、ぼくは小皿に分けてもらったお刺身(もちろん醤油もワサビもつけません)を少しずつ噛みながら、左右で繰り広げられるとめどない会話を聞き漏らすまいと、顔を左右に振って耳を傾けていました。
すると既に酔った目になった編集長がぼくを見て、
「この前テレビで、アランの親戚のすごい能力を観たぞ。獲物のネズミを捕まえるとき尻尾をゆらゆらと振るんだが、それを見たネズミは動けなくなってやすやすと捕まってしまったんだ。あれは催眠術みたいなもんだな。アラン、お前もできるんだろ、今やってみろ」
「いや、無理ですって。その番組はぼくも観ましたけど、確かマヌルネコのことでしょ。親戚と言ったってかなり遠い親戚で、野性がたっぷり残っている連中です。ぼくらイエネコに、その技が使えるやつはいるのかなあ……」
「なんだ、つまんないな。ここにいる誰かに催眠術をかけさせようと思ってたのに」
「無茶言わないでください!」
すると、酔眼をすっと細めた編集長は声を潜めて、
「実はなアラン、俺にもとっておきの能力があるんだ。お前だけに教えてやるよ。誰にもいうなよ」
編集長の向こう側で話を聞いていた女性の先輩が、アホらしいという顔で向こうを向いてしまった。
「実はな……俺は瞬間移動ができるんだ」
(おいおい大丈夫か、編集長……!)
「ただし、いつもできるわけじゃないけどな。酒を飲んでいていろいろ考えたりするだろ。物思いに耽るってやつ。考えて考えて、そして極限まで集中力が高まると……なんと俺は酒場からいつのまにか移動してるんだ」
「ど、どこに移動するんですか!?」
「自宅だよ。気がつくと俺は自宅の玄関口に座っているんだ。誰にもできることではないだろうがコツはな、思念をとことん集中することだ。きっと理力 のようなもんだな」
「………」
アホらしい……まじめに話を聞いてしまった自分が情けないです……。単に泥酔状態で帰っただけでしょ。でも、意識も記憶もまだらな状態でも家にたどり着く能力、帰巣本能のようなものは編集長にもあるんだ。その点だけは、ぼくたちより高い能力を持っているのかもしれない。
そんな編集長の「似 非 能力」ではなく、間違いなく能力を持つ登場人物が事件に巻き込まれるのが、「ジャーロ」59号~62号で連載した青柳碧人さんの「隣りの人間国宝 二人の推理は夢見がち」。今年4月には『二人の推理は夢見がち』のタイトルで単行本となりました。
その内容は――青年・司 は「物」に触れて眠ると、その物に残留する記憶を夢として見る特殊能力があります。偶然バーで司と知り合い彼の能力を知った早 紀 は、急死した祖父の死因に疑問を抱き、司を故郷に連れて帰ります。二人が祖父の死の謎を探り始めると、町には次々と不審な死亡事件が起こり、さらにその過程で早紀自身にも不思議な能力があることが分かってきます。それは腹話術人形を使って危険な未来を予知できる能力でした。不思議な「能力者」である二人が辿り着いた事件の真相とは!?
そして『二人の推理は夢見がち』に続き、「ジャーロ」では今号から第2シリーズ「二人の推理は夢見がち 未来を、11秒だけ」が始まりました。
冒頭から暴力的な事件に巻き込まれてしまう早紀。そして司と早紀の二人の能力者に加え、今シリーズではさらに別の能力者が登場します! 彼らの能力と推理を、ぜひお楽しみください。
『二人の推理は夢見がち』 https://www.amazon.co.jp/dp/4334912176
早朝のこと、「ジャーロ」編集部のあるフロアはまだ人があまり出社しておらず、閑散としていました。ぼくは朝はお腹が空くと目が覚めてしまうほうなので、早めに出社して静かな時間に薦めてもらったミステリー小説を一冊一冊読み進めるようにしています。早く先輩たちとミステリー談義ができるようになりたいですからね。
すると、隣の書籍編集部のT先輩(アラフォーの男性)がパソコンに向かいながら、なにかブツブツ言っているのが聞こえてきました。
「そうくるか……」「くそっ、意味が分からん手を」「マジかよ! そっちを取る?」
と、なんだか不機嫌そうな声。
そっと後ろに回って先輩のパソコンの画面を見ると将棋の盤が映っていて、T先輩は頭の後ろで手を組んで「あ~、やっぱ強いな、こいつ」とため息。
ぼくが画面を覗き込んで「先輩、将棋のソフト入れたんですか」と話しかけると、びくッと振り向いて「なんだよ! 急に声かけるなよ!」。
ぼくは足音をほとんどたてないので、後ろから近づいて声をかけると大抵の人間は驚くんですよね。
「言っておくけど仕事はちゃんとしてるからな。いまちょっと休憩してただけだから」
休憩にしてはずいぶん長かったけど、「分かってます、誰にもいいませんから。先輩、将棋が好きなんですか?」
「まあね。小学生のころから好きだけど、近ごろのソフトは本当に強くてまるで歯が立たんね。ソフトをかなり弱いモードにしてなんとか勝負になる程度だよ」
「ぼくは将棋のルールは知りませんが、永世七冠でしたっけ、国民栄誉賞をもらった羽 生 善 治 さん、それと最近ワイドショーでも取り上げらている藤 井 聡 太 さんの名前ぐらいは知ってますよ。先輩、今度ぼくにも将棋の指し方を教えてくださいよ」
「もちろん教えてもいいけど、アランでも二人の名前を知ってるか。やっぱり羽生効果、藤井効果は大きいんだな」
「将棋ソフトって羽生さんや藤井さんでも勝てないぐらい強いんですかね?」
「嫌なこと訊くね、アラン。羽生、藤井の強さはプロのなかでも別格、人間離れしている。彼らならソフトにも勝てる……と言いたいところだけど、正直、難しいかもしれないね。前に人間とソフトが対戦する『電王戦』という企画があったんだけど、当初は人間がいい勝負をしていた。でも、だんだん高段位のプロ棋士でも強豪ソフトに歯が立たなくなり、満を持して登場した佐 藤 天 彦 名人がponanzaというソフトに敗れたところで、人間対ソフトの企画自体が終了したんだ。羽生、藤井の二人は公ではソフトと対戦していないけどね」
「だんだん勝てなくなったのは、ソフトの進歩が早かったんですかね?」
「そうだな、俺も詳しい理屈は分からないが、AIの進化は予想より遥かに早いらしい。ゲームではまずチェスとオセロで、人間の牙城が崩されたんだ。1997年に『ディープ・ブルー』というコンピュータが人間の世界チャンピオン・カスパロフに2勝1敗3引き分けで勝ち越し、今では人間はほぼ勝てなくなった。同じ年、日本人のオセロ世界チャンピオン村 上 健 さんが『ロジステロ』というソフトに6連敗したという衝撃的な結果が出ている。
囲碁は、ソフトが人間に勝つのは将棋より10年以上かかると言われていたけど、2016年に『AlphaGo(アルファ碁)』が世界トップレベルの棋士、李世ドル に4勝1敗で勝ってしまった」
「先輩、めちゃくちゃ詳しいですね……」
「人間としてなんか悔しいからな、かなり調べてみたんだが……もはやゲームの世界では人間対コンピュータソフトという構図自体が成り立たないほど差がついたと思う」
「そうだとすると、もはやゲームをやる気がしなくなりますね……」
「何を言う! そんなことは断じてない!」
「先輩、朝から声が大きいです」(っていうか、顔が怖いんですけど)
「人間がソフトに負けた後、藤井聡太という天才の登場で将棋を習い始める子どもが増えたのはなぜだ! 井 山 裕 太 の出場する囲碁の世界戦が盛り上がるのなぜだ! オセロがなくなったら、おじいちゃんと遊びに来た孫が遊べなくなるじゃないか!」
最後のおじいちゃんは意味がわからんぞ。そして、先輩の圧力がとんでもなく高い。
「アランはミステリーを読んでいるんだろ。だったらモリアーティ教授の存在があってこそホームズは輝きを増したのは分かるよな。怪人二十面相と明智小五郎もまたしかり。人間同士の頭脳の限りを尽くした戦いにこそドラマがあり、魅力があると思わないか? だから俺はヤツに負けん!」
と熱く語った先輩は、また将棋ソフトに向かっていきました。
確かに人間と人間の頭脳戦には心躍ります。ミスをおかしたり、真相に気がつくのが遅かったり、人間であるがゆえに完璧とはいかないけど、その“抜け具合”にも惹かれるものがあるようにも思います。
そんな人間同士の頭脳戦だからこそ、手に汗をにぎってしまう作品が、今号の「ジャーロ」にも載っているのです!
今年の日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞された北原真理さん。受賞作の『沸点桜 』は、歌舞伎町でセキュリティをしている女が、風俗店から逃亡した美少女を連れ戻しに行ったところ殺し屋に狙われるはめに。二人の逃避行の行き着く先は……というハードな作品です。受賞後第一作となる「ジャーロ」掲載の短編は「きょ~わ国から来た男」というタイトルで、受賞長編とはうって変わって謎解きとサスペンス色の強い軽快なミステリーです。
試験の成績は超優秀、頭脳明晰、運動神経も抜群の男が警察大学校に入学します。指導教官たちも次代の日本警察を担う大器と期待していたのですが……実際の人物は、命令されたことを(からかわれていると)疑いもせず愚直にやり続けるだけで、血を見れば悲鳴を上げる怖がり。「頭の良いアホ」と認定されてしまった男・青 西 香 木 太 はその実、腕っこきの諜報部員で、近々、警察大学校に届くはずのある極秘情報を守る指令を受けていたのです。
極秘情報を狙っているのは近隣の国「きょ~わ国」のスパイ。学校の物理的な防御も、サイバー空間の進入検知システムなどの障壁も易々と突破してしまう、凄腕にして顔の見えない敵。警察大学校という閉鎖空間で、青西対敵スパイの一対一の戦い、頭脳と肉体の限りを尽くしたタイマン勝負が繰り広げられるのです!
やっぱり人間対人間の戦いの魅力は永遠ですよね、先輩。
「ちっきしょ~、また負けた~」と、隣の編集部からまたT先輩の声が。昼休み、今度は他の部員と本物の将棋盤を挟んで対局してます。朝、ソフトと戦っていたのはこの相手に勝つための練習だったようですが(「ヤツに負けん!」の「ヤツ」は相手の人のことだったみたい)、でも結局、人間相手にも全然勝てないようで……。
午前中の編集部、眠そうな顔で出社してきた編集長に、ぼくは借りていた映画のDVDを返しました。
「いやあ、面白かったです。最初は展開がゆっくりなように感じられて、どうかなあと思っていたのですが、編集長の言う通り、途中から一気に引き込まれました」
借りていたのは『十二人の怒れる男』という今から60年も前の映画。いわゆる法廷もので、父親殺しの罪に問われた少年の裁判において、12人の陪審員が評決を議論します。
そう、アメリカは「陪審制度」の国です。日本でも平成21年から「裁判員制度」が導入され、国民の刑事裁判への参加が促進されてきましたが(来年で裁判員制度も十周年になるんですね)、この二つの制度は内容が少し異なるのを、今回の映画を観てから調べてみました。
ざっくりと言ってしまいますと、アメリカやイギリスなどで採用されている陪審制度は「陪審員のみが犯罪事実の認定(有罪かどうか)を行い、裁判官は法律問題(法解釈)と量刑(刑の種類や程度の決定)を行う制度」です。一方、日本の裁判員制度は「裁判員と裁判官が合議体を形成」し、かつ「裁判員は事実認定と量刑を行い、法律問題は裁判官のみで行う」とのことです。
もっともっとざっくり言ってしまうと、裁判員制度は陪審制度と異なり、裁判官と裁判員が共同で、有罪無罪だけでなく量刑についても議論することが特徴です(でいいと思うのですが……)。
映画『十二人の怒れる男』は、裁判官の介入無く陪審員だけで、密室内で議論する過程が魅力的でした。映像的な場面転換はほぼないのに、進むにつれて目が離せなくなっていきます。
プロの裁判官ではないごく普通の市民が議論を重ねていくうちに、最初は早く終わらせて帰りたがっていた人もだんだんのめり込んでいき、そして自分たちが下す有罪無罪の決定が一人の人間の生死を決めてしまう重大なことだと気づき、最終的には有罪と無罪の間で揺れ動く針が最初とは真逆を指すことになる……このスリリングな展開はまさにドラマチックであり感動的でした。
「編集長、本当に感動的な結末でしたよ。一人の男が粘りに粘った議論を展開することで、他の人間を一人また一人と説得していく……。ぼくも裁判員に選ばれたら正義のために本気で議論したいですね!」
「人間の裁判員にお前が……? ま、まあ、そう気負うなって。もし、裁判員候補者名簿に登録されたという通知が来たら考えればいいって。
確かにあの映画は感動的だけど、アメリカの陪審制度は市民だけが参加し、有罪か無罪の評決では全員一致を原則としているからね。市民の全員一致が求められているからこそ、ああいうドラマが生まれるんだと思うよ。一方で日本は多数決だからねえ。映画のようにはいかないかも。でもまあ、密室心理劇の基本ともなった映画だし、オマージュ作品も多数生まれているから、ミステリーの編集をやりたいなら、見ておいて損はないよ」
編集長は日本の裁判員制度でドラマチックな展開はないかもと、ちょっと冷めて見ているようですが、いえいえそんなことはありません。
「ジャーロ」64号で掲載した阿津川辰海さんの「六人の熱狂する日本人」を読んだとき、ぼくは確信しました。「日本の裁判員制度にもドラマはある!」と。
阿津川辰海さんは、「ジャーロ」誌で募集した新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」において選ばれた『名探偵は嘘をつかない』(光文社)で、2017年6月にデビューした新人作家。『名探偵は嘘をつかない』だけでなく、「ジャーロ」62号掲載の短編「透明人間は密室に潜む」など、特殊設定、特殊ルール下での謎解きを得意としています。
今回の「六人の熱狂する日本人」は、裁判員として集まった6人の男女と、一緒に議論を進める裁判官3人が主人公。評決すべき事件とは、あるアイドルグループのファンであるオタクの二人が加害者・被害者となった殺人事件です。
映画『十二人の怒れる男』と同様に、6人の裁判員と3人の評議員が密室で議論を続けてきて、評決する最終日を迎えたところから物語は始まります。犯人も自白して罪を認めており証拠もそろっていて、ごく簡単な事件だと皆が思っていました……この最終日までは。でも最終審議を始めようとする部屋に、裁判員の一人の男がトイレから戻ってきた姿を見て、全員が固まります。彼は事件の加害者・被害者がファンであるアイドルグループ『Cutie Girls』の真っピンクのTシャツを着て戻ってきたのです。彼もまた『Cutie Girls』を愛するオタクだったのです。その姿をあえて見なかったことにして、最終評決に向かって話し始める残りの人々。しかし、そのオタク裁判員が“極刑”の判決を求めたところから、問題無く終わるはずだった評議はおかしくなっていきます。そして一人、また一人と意見を覆し始めて……(その理由が読んでからのお楽しみです)。
オセロのように、白だったものが一枚一枚、黒に変わっていく様は、もはや息をのんで見守るしかありません。間違いなくここにはドラマがあります!
『名探偵は嘘をつかない』https://www.amazon.co.jp/dp/4334911633/
いい夫婦の日をすすめる会が毎年行う「いい夫婦の日アンケート」という調査があります。その2017年度のアンケートに「生まれ変わったとしたら、今のパートナー(夫もしくは妻)を選びますか」という質問がありました。
回答は「もちろん今の相手を選ぶ」「どちらともいえない」「別の人を選ぶ」の三択です。結構、本音に切り込んだ質問ですね。
結果を見てみると、男性50代で「もちろん今の相手を選ぶ」と答えたのは32.0%、男性60代では37.0%。逆に男性50代で「別の人を選ぶ」と答えたのは20.0%、男性60代では16.0%となっています。
一方、女性50代で「もちろん今の相手を選ぶ」と答えたのは27.0%、女性60代では23.0%。女性50代で「別の人を選ぶ」と答えたのは26.0%、女性60代では26.0%となっています。
長年連れ添ってきたであろう50代、60代の夫婦では、生まれ変わっても同じ相手と結婚したい人の割合が高い男性側の思いに比べ、女性側は別の相手を選びたい人の割合が男性より多いという結果です。かなり冷めているというか、つれないというか……。男性にはちょっと厳しい数字ですねえ。
50代~60代は、勤め人の家ならば、定年を迎えたか間もなく迎える世代。会社から離れ、夫婦の時間が増えていく時期を迎える人たちです。「いい夫婦の日」のアンケートなのに、なんだか心に引っかかるものがある回答ですね。ぼくはまだ独身ですが、男女の数字の差を見て、わけもなくドキドキしてしまいました。
60号より始まった宮部みゆきさんの「女神の苦笑」シリーズでは、運命の女神でさえ苦笑するしかないような偶然の積み重なり、連鎖、連結に巻き込まれた人たちを描いています。
今号の「映画館の妖精」では、夫がまもなく定年を迎える夫婦が主人公。夫の韮 山 明 宏 は優秀なサラリーマンで、定年後も系列会社での再雇用が決まっており、二人の子供を立派に育て、妻にも義母にもいい暮らしをさせてきたと思っています。「俺は人生に成功した男なのだ」という自負を持っているのです。
ある日、明宏が家に帰ると、妻の美 沙 子 が台所で顔を覆って泣いているのを見てしまいます。どうしたんだと尋ねるのに答えず、美沙子は一度台所を出て行くと、しばらくして外出着に着替えた姿でボストンバッグを手に戻ってきました。
「こんな話をしたら、もうこの家にはいられないから」と言って、自分の人生を後悔する気持ちが止まらないと語りだした美佐子の話とは……。
「夫」の皆さんには心落ち着かない出だしですよね。それでもきっとページを捲る手が止まらなくなる驚きの展開の物語です!
ところで最初に例を挙げた「いい夫婦の日アンケート」に「あなた方ご夫婦が円満のために、大切だと思うことを教えてください」という質問もありました。これに対して50代、60代の男女とも、もっとも回答が多かったのが「話をする・聞く」です。なんだ、なにが大事か、なにをすべきかお互いに一致しているじゃない。それでも「生まれ変わったとしたら、別の人を選ぶ」と答えた女性が男性より多かったということは、男性側がこの「大切だと思うこと」をしていないということなのでしょうか。
結婚って難しいんですね。なんだか自信なくなってきた。っていうかその前に、まだ見ぬぼくのお相手はどこにいるんだ~!?
少し前のことになりますが、ロンドン大学UCLの科学者チームが「他人の不幸に対し人間がどう反応するか」を調べた研究結果を英科学誌「ネイチャー」に発表しました。
科学者チームは、4人の俳優が金銭のやり取りをする演技を被験者に見せる実験を行ったのですが、その4人のなかに借りた金をきちんと返す誠実な役と、ほとんど返さないずるい役を入れていました。演技のあと、相手役の4人に軽い電気ショックを与えるところを被験者に見せ、脳をスキャンした結果、男女の反応に大きな差がみられたというのです。(うーん、正直なところ電気ショックの実験はあまり見たくないです。想像しただけで毛が逆立ってきます)
借金をきちんと返した俳優、つまり好感を持った人が苦痛を受ける場面では、男女とも脳の「共感」「痛み」を感じる部分が活発に反応し「同情」を感じていたとのこと。(まあ、それはそうですよね)一方、借金を返さないずるい人、つまり嫌いな人が苦しんでいる姿を見ると、男性では「共感」の反応がまったくみられず、「報酬」を得たときに反応する「満足感」の部分の反応が大きかった。同じ場面を見た女性は、僅かながら「共感」の反応が出たそうです。
つまり「他人の不幸を喜ぶ気持ち」は女性より男性のほうが強いということになったのです! 「ざまあ見ろ!」という感情ですね。ずいぶん変わった研究をしたものですね、このチームは。
別のアンケートでも、男性のほうが女性より復讐心が強かったり、嫉妬心も男性のほうが強いという結果もあったりしますよね。ぼくが言うのもなんですが、この通りだとするとなんだか男って怖いですね。
60号より連載がスタートした前川裕さんの「犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル」シリーズ。日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞したデビュー作であり、映画化もされた『クリーピー』の主人公・高倉が探偵役の連作短編です。古今東西の猟奇犯罪に精通し犯人の心の襞に分け入ることができるその能力をフルに活用して、高倉は犯人を追い込み、またときには情をもって犯人を説得します。
今号に掲載の「あなたと一緒に踊りたいの!」では、高倉と同じ大学の英米文学科に勤める女性の専任講師・鏑 木 由 香 が中心人物となります。33歳の由香は、生まれてから15歳までアメリカで育ったバイリンガル。日本に戻ってきてからは、英語をネイティブの発音で話せることにより、同級生や英語教師からも嫉妬ゆえの意地悪をされてきました。でも彼女自身は「バイリンガル=どちらも完全なネイティブではない中途半端な状態」に劣等感を感じているのでした。自分が負い目に感じていることで嫉妬されてしまう、つらい状況ですよねえ。
そこで由香は大学在学中に日本語を磨き上げ、小説も書き始めます。そして大学院を経て大学に就職してから、純文学の文学賞の新人賞を受賞してしまうのです。
折りしも由香の英米文学科では授業を英語だけで行うことが推奨され始め、バイリンガルにして作家デビューも果たした由香は、まわりの教授たちの嫉妬と憎しみを一身に受けることに。なかでも学科主任は由香に好意を寄せていたにも関わらず拒否されたことから、表に裏に陰険に由香の足を引っ張り始めるのです……。まさに「他人の不幸を喜ぶ」タイプの男が、嫉妬にとりつかれた状況! いやあ、ぼくも男ですが、この状況は怖い!
そんな由香にとって唯一の救いが、大学以来の友人で同じ学科に勤める志 保 の存在。小説の相談相手でもある志保がいるからこそ由香は頑張れるのですが……あるとき二人の関係に隙間が生じることが起きてしまい……。
人間心理に名医のメスのように的確に切り込んでいく推理力と、犯人の哀しみを理解する優しさ。高倉のふたつの面をたっぷり読むことができる一篇です。
ぼくも人間の言葉と猫の言葉が使えるバイリンガル(?)ですが……これまで嫉妬されたことはないですねえ。だいたい、猫の言葉が使えても仕事が有利になることなんかなにもないですからね。どちらかというと分かるがゆえに面倒なことが多いかも。特に春のいま、外からは愛の言葉を交し合う猫のカップルの声が聞こえてきて、まったく頭にきます! あっ、これは嫉妬?
突然ですが、「クイーン」という言葉から何を連想するでしょうか。
編集部でぼくのすぐそばに座っている某おじさんは「クイーン? そりゃフレディでしょう。『エルム街の悪夢』だと? 違~う! そっちが先に出るか、普通!? フレディ・マーキュリー! お前でも聞いたことぐらいあるだろ。ああ、あの美声、あの動き、そしてあの胸毛……。よーし、今夜はカラオケで “WE WILL ROCK YOU”だぁ~!」
勝手に盛り上がっている人は放っておいて、ごく普通に「女王」を想像する人も多いでしょうね。現代で最も有名な女王はイギリスの「エリザベスⅡ世」でしょうか。66年にわたって女王位にあり続けるあのお姿が思い浮かびます。
「トランプ」と答える人もかなりいるかも(大統領じゃなく、カードのほう)。トランプの絵札にはそれぞれモデルがいるらしく、「クイーン(Q)」の絵のモデルは、ハートがユダヤの伝説上のヒロインのユディト、スペードがギリシャ神話の女神アテナ、ダイヤが聖書に登場するヤコブの妻ラケル、クラブがエリザベスⅠ世(エリザベスⅡ世の直系の先祖ではなく、遠い親戚)だとか(諸説あるうちの一説)。
ちなみにトランプの四種のマークにもそれぞれ意味があり、スペードが剣で騎士を、ダイヤは貨幣で商人を、ハートは聖杯で僧侶を、クラブは棍棒で農民を表しているそうです。
そしておそらく「ジャーロ」の読者に多いと考えられる答えが、「クイーンといえばエラリー」ではないでしょうか。
エラリー・クイーン――フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーの二人(従兄弟同士)の共作のペンネームであり、彼らが生み出した名探偵の名前でもあります。アガサ・クリスティーなどと並んで、二十世紀の本格推理小説の黄金期を代表する作家だと、ぼくも先輩たちから教わりました。
そしてエラリー・クイーンの代表的な作品に「国名シリーズ」というのがあって、その名の通りタイトルに国名を冠した作品群です。『ローマ帽子の謎(秘密)』から『スペイン岬の謎(秘密)』までの9作で、主人公は名探偵のエラリー・クイーン……とこれも先輩から教わったこと。
上のタイトルで『謎(秘密)』と書いたのは、実はいま創元推理文庫と角川文庫から国名シリーズの「新訳版」が出ていて、創元推理文庫が『~の謎』、角川文庫が『~の秘密』と末尾の語を変えているのです。どちらのシリーズでもいいと思いますので、ぜひ国名シリーズを手にとってみてください。ぼくもいま、楽しくシリーズを読み進めています!(さらにちなみに、角川文庫のカバーイラストのエラリーはかなりイケメンですよ)
さて今号より、そのエラリー・クイーンの国名シリーズに、本格ミステリーの王道を歩む作家・柄刀一さんが挑戦するシリーズを掲載します。柄刀版国名シリーズの主人公はカメラマンの「南 美 希 風 」。これまで数々の謎を解いてきた男です(美希風のシリーズは光文社文庫より刊行されています)。そして今回挑むクイーン作品は、国名シリーズのなかの最高傑作との評判も高い『エジプト十字架の謎(秘密)』です。
美術大の学生のゼミ旅行に写真をレクチャーするため同行した美希風。コテージに分散して宿泊する楽しい旅行も、二日目の朝に発見された異様な死体によって、凄惨な事件現場へと変わってしまうのです! 心臓に持病を抱える若き推理の天才・美希風は、どのように十字架の事件に立ち向かうのか!?
エラリー・クイーンのファンの方はもちろんお楽しみいただけると確信していますが、これまで一度もエラリー・クイーンを読んだことのない方もご安心ください。柄刀版国名シリーズは予備知識がなくても大丈夫! 驚愕の殺人事件と、世界が逆転するような鮮やかな推理を堪能できること間違いなしです。
今年もまたプロ野球のシーズンが近づいてきました。3月30日に開幕だとか。お隣の編集部のいつも騒がしいおじさん編集者も、スポーツ紙やネットをチェックしてはお気に入りチームの戦力診断に余念がない。
「1番田中、2番菊池、3番丸の“タナキクマル”は今年も鉄板、全球団一! 鈴木誠也が四番に定着してくれたら、エルドレッドや新井とともに打線は完璧じゃろ。一方の投手陣も薮田に野村、ジョンソンに大瀬良もおるし……うひょーっ! このローテはぶち贅沢じゃけぇ」
と、聞いているぼくはなにが「全球団一」で「贅沢」なのか、まるで理解できない人名を羅列し奇声を発しています。奇声も変ですが、普段は言わない方言が出てますよ、先輩。
(ただしこの方言はぼくが聞きとったものですので間違いがあるかも、です)
あと奇声を発しながら赤いメガホンを振り回さないでください。ぼくは素早く動くものについ反応して目が追いかけてしまうんですって。
「今年も“マツダスタジアム”に遠征して同士とともに応援するか! あっ、でもなぁ……」
急に標準語に戻った先輩の声が落ち込んでる。
「なんかまずいことでもあるんですか?」
「いやね、俺が“マツダ”に応援に行くと必ず雨が降るんだ。過去何年も必ずね。前日や翌日が晴れていても、その日だけは雨。ホームスタジアムで応援はしたい。でもチームや同士のファンたちが俺のせいで雨にさらされるのは忍びない」
(はあ? 何言ってんの、この人。雨男だからってこと?)
「いや、大丈夫ですよ、先輩のせいで雨が降るわけないじゃないですか」
「お前は知らないんだ。俺の“マツダスタジアム雨男”力がどれほど強いかを。必ず、絶対、確実に、100パー、俺が行けば降る! いや降らせてみせる!」
なんだこのアホな自信は……。
2017年発表の統計によると日本の1年間の平均降水日数は約122日。つまり年の三分の一は全国のどこかで必ず雨が降っている確立になります。
そもそも、水蒸気を含んだ空気がある地域に現れ、その水蒸気が結露して雨となって落下するという壮大な自然現象と、先輩が「今日も絶対勝つけぇ!」と叫びながらたまたまその日に“マツダ”に乗り込むのことに、因果関係があるわけないですよ。
あと、「自分は大事な日に限って悪いことが起きる」と思い込んでる人間は多いですが、悪いことが起きるとそのことは強烈に記憶に残り、なんども思い返しているうちにさらに記憶に刻まれ、自分にとっての絶対法則になってしまう……という現象もあるらしいですよ、先輩。
そんな「雨男(雨女)は偶然でしかない」説を覆してしまうのが、鳥飼否宇さんが今号より連載を始めた「ディザスター・シリーズ」です。主人公はネットニュース配信会社社長(といっても社員は一人)の郷田と、アシスタントとしてこき使われるアルバイトの三田村。「夜尿症にはナマズエキスが効く!」だの「独占取材 十六回転生した少女」といった、三流としか言いようのない“ニュース”を配信している彼らは、なぜか取材先で災害に出くわしでしまうのです。それこそ先輩の“マツダスタジアム雨男”力より遥かに大きな力が働いたかのように。
そして偶然撮影できた災害の“スクープ映像”のなかに、災害で亡くなったはずの人が実は殺人の被害者である可能性を示すものが映り込んでいて……。
今回は、「南の島で伝説の人魚を発見‼」などという“ニュース”をでっち上げようと沖縄の離島に赴いた二人の目の前で、住宅火災が起きて……。鳥飼否宇さんならではの不可思議な事件と解決をお楽しみください。
ところで先輩の悩みに、ぼくはいい解決法を思いつきました。
「そうだ、悩みの解消は簡単ですよ。屋根付き球場をもつチームのファンになればいいんです。巨人とか西武はどうです?」
「バカたれ! 本末転倒じゃろうが」
振りかぶった赤いメガホンが、ぼくの頭に思いきり直撃したのでした……。
先日の部の飲み会での話。例によって酔っ払った編集長が「実は俺ね、高所恐怖症なんだよ。ふふふ」と、自らの高い場所での恐怖体験を事細かく説明しますが、なんとなく自慢気なその顔。恐怖症なのがなんで自慢なのでしょうか。どうもその高い所から落ちた自分を想像して怖くなるのだとかで、
「まあ、それだけ俺が繊細の神経と豊かな想像力の持ち主ってことだな」
なるほど、そういう自慢ね。
すると他の部員からも、閉所恐怖症だの暗所恐怖症だの、はたまた先端恐怖症から昆虫恐怖症まで、様々な恐怖症話で飲み会は盛り上がっていきました。恐怖症なのがそんなに楽しいのかな? この前聴いた落語の「まんじゅうこわい」と同じことなの? 今ひとつ会話に乗れなかったぼく。ぼくは高いところは全然平気で、屋根や塀を見ると登りたくなる。狭いところは大好きで、体ぎりぎりのサイズの箱に潜り込みたい。暗いのは嫌いどころか、逆に安心できるし無性に走り出したくもなる。先端は……人が指を突き出していると、指先のにおいを嗅ぎたいかな。昆虫を見ると、手で押さ付けたい衝動を止めるのに必死です。周りの人に嫌がられるから。
うーん、やっぱりみんなの恐怖症が分からない。
今号で掲載した大山誠一郎さんの「暗黒室の殺人」は、そんな暗所恐怖症、閉所恐怖所の人なら悲鳴ものの状況で事件が起きます。
ビルの地下2階にあるギャラリーを訪れた、お互いに面識のない男女。近くの道路で起きた陥没事故の影響で突然ビルが停電し、エレベーターは動かないし非常扉も開かない! 受付嬢を含めた五人は地下の真っ暗な閉鎖空間に取り残されてしまったのです。携帯電話の電波は届くので外部との連絡は取れ、救助を待つことになった五人。暗闇のなかスマホの明かりだけを頼りにお互い自己紹介するのですが、突然明かりの届かない闇の中で何者かの悲鳴が響き、明かりを向けると倒れている男が。五人のうちの一人が殴り殺されていたのです。犯人は残った四人のなかに……!?
たまたまこの四人のなかにいた和 戸 宋 志 。彼は警視庁捜査一課の警部で、これまで数々の事件を解決してきた男です。それも実は自らには謎解きの能力がないのに、周りの容疑者たちが勝手に推理を始めてしまうという“特殊能力”によってでした。この“特殊能力”を和戸自身は「ワトソン力」と命名しています。本家シャーロック・ホームズとワトソンがそうであるように、数々の名探偵がワトソン役をそばに置いているのはなぜか。それはワトソン役が名探偵の推理力を高める力=ワトソン力があるからではないか……という考えからです。
名探偵のいないワトソン役、それが和戸で、名探偵に代わるように容疑者や関係者が和戸を差し置いて推理合戦を始めてしまい、結果、事件解決の功績は和戸のものになってきたのです。他力本願の塊のような“結果的名探偵”、それが和戸宋志です。 さて自分を除いて容疑者は三人。暗闇のなかで、またも和戸のワトソン力はこの三人に影響を及ぼすのでしょうか。次々出てくる推理の論理展開と、驚愕の結末をお楽しみください。
飲み会のあと、ぼくにもなにか恐怖症はないかなと考えていました。編集長の強めの柑橘系コロンや腰痛の湿布薬の匂いはだいぶ馴れてきたし、それらは“怖い”というより“嫌い”だよな……。あっ、あった。絶対的恐怖の対象が! アレがいる限り、ぼくに平穏な日は訪れない存在が。大きな雄叫びをあげながら、どこまでもぼくを迫いかけてくる、とんでもない怪物!
ねえ皆さん、掃除機恐怖症ってありますよね!
「リドル・ストーリー」と呼ばれる小説が好きです。ミステリ修行中の身のぼくに、先輩が「これも読んでおいたほうがいいよ」と貸してくれた本に、ストックトン作の「女か虎か?」が収録されていました。
リドル・ストーリーの代表作と言われるこの小説は、その性格上ネタバレになるようなものではありませんので、あらすじをざっと記しますが、もし予備知識無しで読みたいと思われる方は、この先は読まないでくださいね。
ある国の王女が身分の低い若者と恋に落ち密会を重ねますが、二人の関係が王様にばれて、若者は処刑されることになります。その処刑法とは、闘技場に連れて行かれた若者が二つある扉のどちらかを選んで開けなければならないというもの。一方の扉のなかには飢えた虎がおり、もう一方の扉にはその国で最も美しい娘がいるのです。
虎の扉を選ぶと若者は喰い殺されてしまいますが、娘の扉を選ぶと罪が許され、その娘と結婚することになるのです(必ずその娘と結婚しなくてはならないルールです)。
扉のなかにどちらがいるか、もちろん闘技場の観客も知らされていないのですが、王女は手を尽くして扉のなかを知ることができたのでした。
王女には究極の二択ともいうべき選択が委ねられたのです! 愛する若者が虎に食われるなど耐えられない。でも、自分より美しい娘と若者が結婚することも我慢できない……。
そしてついに処刑のときが来て、闘技場に出された若者が観客席の王女と目が会ったとき、王女は密かに手で合図をし、開けるべき扉を若者に示しました。
果たして、合図をした扉とは!?
物語はここで終わりです。結末はありません。それは読者に委ねられているのです。こういう小説を「リドル・ストーリー」と呼ぶことを、先輩に教わりました。「結末がないのが嫌いな人もいるけどね」と付け加えていましたが、さらに「どちらの結末だと思うか、酒飲みながら話すと盛り上がるよ。でも、男女で意見はけっこう分かれるなぁ」だそうです。
ぼくは面白いとおもいましたけどねぇ。自由に発想できるし、結末の場面を想像するのも楽しい。
こういう、存在しない結末を想像するのも「結末の楽しみ」のひとつだと思いますが、一方で最後の最後でのどんでん返し、読んでいる途中のあらゆる予想が最後に覆されるタイプの小説もあります。「衝撃のラスト一行」といった惹句が付けられるタイプですね。
特にミステリーに多いと思いますが、これもまた「してやられる愉悦」があると思います。そして、この「してやられた感」は長編小説もいいのですが、短編小説で見事に騙されたり、ひっくり返されたりすると、さらに高まる気もします。
今号で登場していただいた曽根圭介さんは日本ホラー小説大賞短編賞、江戸川乱歩賞、そして日本推理作家協会賞短編部門を受賞されています。つまりホラーもミステリーも、そして短編も長編も得意とされており、どちらも独特の世界観に読者をグッと引き込みます。
なかでも短編では最後の「してやられた感」をいつもガッチリ用意してくれていて、今回の「父の手法」も、最終ページでこれまで読み進めてきた世界をがらりと変えてみせてくれます。
主人公の女性は、かつてジャーナリストを志したこともありましたが、今は介護付き老人ホームで見習い介護士として働いています。ある日彼女は、ホームにいる認知症の老人からまったく別人に間違われてしまいます。老人に「俺に仕返しにきたんだろう」と言われたことが気になった彼女は、その間違われた名前を調べていきます。すると、かつてあった死体遺棄事件にぶつかるのです。その事件の容疑者は女性で、すでに有罪が確定して刑務所に入っていますが、未だ冤罪を主張しています。認知症の老人からさらに「死体遺棄は自分がやった」という告白まで聞き出した主人公は、かつてのジャーナリスト志望の気持ちが再び目覚めたかのように自ら調査に乗り出します。そして彼女は犯人とされる女性の夫に辿り着き……。
読み進めるうちに、主人公の前で口を開ける謎にぐいぐい引き込まれ、そして最後には……。まさに“企みの作家”といえる曽根圭介さん。その手腕を存分に楽しんでください!
最近、落語にはまっています。“らくこ”とか“落女”と呼ぶらしいですが、落語好きの女性(女子)の先輩にいろいろ教わって、CDを貸してもらったり、寄席に連れて行ってもらったり。
おかげで落語にはぼくの仲間も結構登場しているのが分かったのですが、どうもその扱いがあまりよくない気がしますね……。『太鼓腹』では鍼をうたれて危うく殺されそうになるし、『金明竹』では大切な爪と髭を切られちゃうし、『堀の内』ではそそっかしい男に手ぬぐいと間違われて顔を拭かれるし(後の毛繕いが大変そう)、聴いているだけで尻尾の毛が逆立ってきます。
あと、“泥棒猫”というひどい言葉が人間界にあるからか、魚を盗む悪役も多いです。『猫の災難』では危うく冤罪事件に巻き込まれるところだったし(別バージョンの『犬の災難』は溜飲が下がりますけどね)、『猫と金魚』などでも悪賢い悪戯者です。その他、化け猫としての登場もたくさん。
一方、犬のほうも確かに扱いの悪い噺 が多いです。先ほどの『犬の災難』もそうだし、『犬の目』など、目玉をくり抜かれてしまう怖しいネタです。でも、犬には『元犬』という、猫からするととてもうらやましい噺があります。
一本の差し毛もない真っ白な犬(白い犬は人間にいちばん近い存在だとか)が、人間になりたいと八幡様にお百度を踏むと、本当に人間になれたという噺なのですが、こんなに扱いのいい噺は猫にはないような気がします。
猫は人間のそばにいる者のなかでもとても思慮深い存在だからこそ、いろいろネタにされてしまうのでしょうけど……ちょっと不満なぼくです。
実はぼくは、一本の差し毛もない全身黒毛だけで覆われた黒猫です(ちょっと自慢)。兄弟のなかには、お腹や脚の先や耳に、少しだけ白毛が混じっているのもいて、よく羨ましがられます。でも、そういう差し毛もいいアクセントになっていて、それはそれで可愛いなと思うんですけどねえ。本人たちは気にしているみたい。
と、ここまでが枕で、話は本題へ。今月号に掲載の澤村伊智さんの「宮本くんの手」は僕の兄弟の差し毛のように、多くの人たちの体にあるほんの些細な違いや異変が発端となります。怪我で一度取れてしまった爪が生えかわっても変形していたり、一本だけ永久歯が生えなかったり、怪我を負った膝は完治しているのに雨が降る前に必ず疼いたり……そう、存在すら忘れてしまうほどの体の小さな異変は誰にでもあること。
登場人物の宮本くんの場合、あるとき急に手の皮が剥けていくという異変を抱えています。皮が剥けて血がにじむほどの痛さを伴うものですが、宮本くんの場合、その原因が我々の想像するのとはまるで違うところにあると信じ込んでいるのです。その結果、宮本くんがとった行動とは……。
日常のなかにあるほんの些細なでき事が、染みのように徐々に広がって日常を侵食していく恐怖、読んでいて後ろを振り向いて確認したくなるような物語を得意とする澤村伊智さん。今回も期待を裏切らない恐怖譚です!
今朝も出勤の準備で、鏡でチェックしていたぼく。ふと見ると耳と耳の間の毛に白く光るものが……げっ! 白髪!? なんでだ? ぼくはまだまだ白髪の生える年齢じゃないのに。ストレスか!? そうだストレスに違いない。ストレスの元凶といえば……編集長……お前だっ!!
あなたの親戚に「不思議なおじさん」はいませんか?
別に「おばさん」でもいいのですが、謎に満ちた不思議な存在という意味で記憶に残るのは、なぜかおじさんのほうが多いようです。
自分の父親が家の外で何をして、どう働いているのか、子どもでもなんとなく理解しています。家にいるときのダラッと寝ている父親の姿は、多少の鬱陶しさと共によく覚えてもいます。
でも、たまに親戚が一堂に会する場のなかに、普段何をやっているのかまるで分からない「おじさん」はいませんでしたか?(大人たちは当然知っていたのでしょうけど)
ぼくの記憶の中にも、生活感がないというか日常が見えないというか、ふわっとした存在の「おじさん」がいました。そもそも、そのおじさんとどれくらいの血縁関係なのかさえ定かではない、とりあえず「おじざん」と呼ぶしかない存在。
そんな不思議なおじさんは案外子どもに優しかったりして、大人に混じって退屈している子どもたちにいろいろな街を探索したときの話をしてくれたり、そのとき持ち帰った戦利品(ただの枝だったり、何かの紐の端っこだったり)を手に入れるまでの冒険譚を聞かせてくれたり。そんな話を、ぼくたち子どもは目を輝かせて聞いていました。でも、おじさんが本当はどこで何をしているのか、やっぱり知らない。
――あのおじさんは、いったい何だったのだろう?
芦辺拓さんが62号より連載を始めた〈幻燈小劇場〉は、そんな不思議なおじさんの、謎の人生を辿っていく物語です。
ある劇場に長年出演している老俳優の「私」に、ある日プロデューサーが話を持ちかけます。「企画・演出・主演……何もかも自分の思い通りにした舞台をやってみないか?」と。
ただし、そのための条件が一つあるのです。老俳優はかつてプロデューサーに「おじさんに聞いた話」をしていたのですが、プロデューサーは「その話をふくらませれば面白い芝居になる」と感じていたのです。しかし老俳優は、実際のところ「おじさん」のことをよく知らない。そこでプロデューサーはさらに畳みかけます。「それなら、あんた自身が調べて歩くんだな」。
ということで、老俳優は自分で思い通りに作ることができる主演舞台のため、「おじさん」の思い出と足跡を辿り始めます。まず最初の手がかりは、使い込まれて傷だらけの革張りのトランク。そこから「おじさんの人生を辿る旅」が始まります!
芦辺さんはこれまでも光文社より、幻想怪奇の魅力を横 溢 させた本を刊行されています。
古書蒐 集 に憑 かれた人間が目眩 く悪夢へと引きずり込まれ、現実と虚構を行き来しながら、背筋を寒からしめる奇妙な体験をしていく『奇譚を売る店』。
支配者に隠 蔽 された楽譜、死者が道連れにした楽譜、呪われた楽曲の楽譜……依頼があれば古今東西の散逸した譜面を、どんなものでも必ず見つけ出す楽譜探索人を描いた『楽譜と旅する男』。
〈幻燈小劇場〉はそれら「幻想奇譚」シリーズに連なる連載です。
芦辺さんと一緒に、どうぞ「おじさん」の過去を遡る旅に出かけてください。
昔から人間たちは「強大な力を秘めた道具」にとても魅力を感じてきたようです。彼らが生み出した数々の物語に、その道具への憧れが込められています。
古くはランプを擦 った者の願いを叶えてくれる「アラジンと魔法のランプ」があり、20世紀初頭にも三つの願いを叶えてくれる「猿の手」をジェイコブズが書き、少し前では名前を書いた人間を死なせることができるという死神のノート「デスノート」を描いた漫画『DEATH NOTE』とか。
しかし一方で、その道具を使いこなすことの難しさも描いています。「猿の手」では願いが叶うために高い代償を支払わなくてはならず、「アラジンの魔法のランプ」と『DEATH NOTE』では、道具の使用において細かなルール・制約があります。
ディズニー版『アラジン』では、ランプの精のジーニーにより、「殺生」「恋愛成就」「死者を生き返らせる」「叶える願いの数を増やす」「願いを取り消す」の五つの願いは叶えることができないとされます(あー、面倒くさい)。
『DEATH NOTE』にいたっては、それこそ数え切れないほどのルールが設定されています(後からどんどん追加されたし)。
おそらく、どうやったら道具(もしくは道具の背後にいる、悪魔など力を司るもの)の裏をかけるか、人間が試行錯誤を繰り返してきた、ある種の論理ゲームの結果、ルールもどんどん強化されていったのでしょうね。
確かに三つの願いの最後で「叶えられる願いを百個に増やして」などという願いが叶ってしまったら、お話になりません。
しかし人間自体に能力が無い以上、裏をかこうとするのも致し方ないことかもしれません。
62号より「そのナイフでは殺せない」の連載が始まった森川智喜さん。これまでも「なんでも教えてくれる不思議な鏡」や、18世紀末の“侍の国”に現れた光る円盤から出てきた不思議な道具(いわば現代の科学捜査の道具)などを小説世界に巧みに取り入れ、ルール・約束事をきちんと確立した特殊世界設定のミステリーを得意とされてきました。
そして今回登場するのは「ナイフ」。主人公の大学生・七 沢 は、海外旅行で行ったフィレンツェ郊外の蚤の市で、あるナイフを手に入れます。大きな刃で、柄にドクロと心臓の彫刻が施されたそのナイフには、実はとてつもない力が宿っていたのです。
その力の源である宿り主と会い、ナイフの能力を知っていくことで、七沢は現実世界にいながらにして異世界の力を手に入れることになります。
さて、そのナイフの宿り主とは? ナイフの能力とは? そしてその力の行使に設定されたルールとは?
七沢が一歩踏み出したことで、読者の皆さんの前に魅力的な森川ワールドが展開されます!
人間とは違い、ぼくたち猫(というか先輩猫たち)には、もともと大きな力が秘められています(そう教わりました)。
“A cat has nine lives. ”(猫に九生あり/猫は九つの命を持つ)と言われるように、ぼくたちの命は九つもあって、死んでも何度でも生き返るのです!(ちょっと怖いけど)
かつて中世ヨーロッパでは、先輩の猫たちは魔女の使い魔であるとみなされていましたしね。能力を秘めた道具がなくても問題ないのです。
でも……これは内緒なのですが……「猫は九つの命を持つ」と言われる本当の理由は、ぼくたち猫に「家出」の習性があり、何日も戻ってこずもう死んでしまったのだろうと人間たちが思ったころにひょっこり帰ってくるので、「生き返った猫が戻ってきた」と思われたことにあるとか……。
そういえば、ぼくも無性に家出をしたくなるときがあります。特に春が訪れると……。
お隣の編集部のおじさん編集者が、独り言のように言いました。「2020年が楽しみだなぁ」。
その声が耳に入ってしまったぼくが「東京五輪ですね」とお愛想で話しかけてしまうと、
「なに言ってんの? お前分かってないね。ハリウッド版の『ゴジラ対キングコング』が2020年に公開されるの! ゴジラ史上、俺のもっとも好きな日本オリジナル『キングコング対ゴジラ』がリメイクされるの! あっ、オリジナルのタイトルでは「ゴジラ」が後に入るんだからね。なんと1962年以来の2大怪獣の対決だよ、この重大性が分かる?」
しまった、面倒くさいツボに嵌まってしまったみたい。「いえ、まったく分かりません。だいたい1962年は先輩も生まれてなかったのでは?」とは口にできないので、「はあ……なるほど」と引き気味に答えていると、おじさん編集者の語りはまだまだ続いて……。
「やっぱりゴジラシリーズは“対決”にこそ妙味があるのよ。対アンギラス、対モスラの初期作品がそうだし、平成ゴジラシリーズは別名“vsシリーズ”と呼ばれているし、ミレニアムシリーズだって事実上“対決”ものだと思うのよ、俺は」
いや、まったく付いていけません、先輩。
「“対決=vs”は本来、絶対的な善=正義の味方と絶対的な悪との闘いが王道だと思うんだ。東宝特撮では『サンダ対ガイラ』がそれに近いかな。アランはどう思う」
「はあ……そうなんですか……(知らないって)」
「だがな、正義もなにもない、人間の敵同士、悪同士の“対決”も、これがまた結構魅力的だと思わない?」
「はあ……ですよね……(だから知らないって)」
「ゴジラからは外れるけど『フレディvsジェイソン』なんてのもそうじゃない。あと、『エイリアンvsプレデター』もあったな。そうそう、近いところでは『貞子vs伽椰子』は驚きの設定だよな。まてよ、『バットマンvsスーパーマン』はどう捉えればいいんだ?……そういえば……」
ますます訳の分からない独り言を続ける先輩のそばを、ぼくはそっと離れたのでした。
しかし、今号から連載が始まる早坂吝さんの「殺人犯 対 殺人鬼」を読んで、先輩の言っていた「悪同士の“対決”も魅力的」という言葉の意味が分かってきました。
外から閉ざされた場所で、ある人物が復讐のために殺人を犯そうとしていた。人殺しが悪いことだとは分かっている。しかし、この相手は絶対に許せないことをした。自らの手で復讐を遂げずにはいられない。そしてその人物が殺すべき相手の元に辿り着いたとき、その相手はすでに殺されていた。それも残虐過ぎるほどの残虐さで! もしかすると、ここには猟奇的な殺人鬼が紛れ込んでいるのか? そして自分の先を越して殺人を成し遂げてしまったのか?
殺しを目的とした二人の人間が、偶然にも同じ閉鎖空間で、同じ相手を殺そうと思ったら……という、これはミステリーファンにはたまらない設定ではありませんか。
殺人犯と殺人鬼の“ライバル同士”が、相手より先に殺人を遂行しようとする、究極の対決。結末がどうなるのか、連載を追いかけてください!
先日、「ジャーロ」編集部と同じフロアにいる先輩女性編集者がデパ地下について熱く語っていました――。
「デパ地下っていうのは、そこは行けば必ず何かが見つかる魔法の場所なの。エスカレーターを降りる途中から目に飛び込んでくる溢れんばかりの色彩と、食欲を刺激してやまない魅惑の香り! 試食もできるし、自分へのご褒美のスイーツ探しも楽しい。仕事帰りに歩き回るだけで幸せになれて、もはや行くこと自体が目的となる街のテーマパークね!」
なんでそれほどのめり込めるのか、僕には理解しがたいです。いつもより豪華なキャットフードが出てきたときみたいな幸せを感じるのかな。だとしたら、なんとなく分かるけど……。
でも先輩は、そんなデパ地下においても和菓子屋さんが集まるエリアはどこか雰囲気が違うとも言っています。老舗の路面店よりは親しみやすく気軽に購入できるけど、どこか凛とした清々しい空気が漂っている。楽しいだけでなく、和菓子を買うだけで、なんだかちゃんとした自分になれるのだとか。
「ちゃんとした自分になれる」――それが「和」のもつ佇まいなのでしょうか。
そんなデパ地下の和菓子店「みつ屋」が舞台となる人気シリーズ「和菓子のアン」。『和菓子のアン』『アンと青春』に続いて、ついに61号より第3弾の連載が始まりました! その主要登場人物を見るだけで、ただものではない面白さが感じられます。
高校を卒業して、進学も就職も決められないまま「みつ屋」でアルバイトをすることにした主人公の梅本杏子 、通称”アンちゃん”。食べることが大好きな彼女はアルバイトし始めのころ身長150センチ、体重57キロと、ちょっとぽっちゃりめ。その体型のコンプレックスから男性と話すのが苦手だったりします。「きもちいい!」とみんなにほっぺたをつままれながら頑張る仕事を通じて、和菓子の奥深さを学んでいきます。
「みつ屋」の店長・椿 はるかは、仕事のできる美女。客が選んだ和菓子から、その人の悩みや購入目的を推理する知識と頭脳をもっています。でも、その中身は株やギャンブルが趣味で、私服のセンスは最悪、ビールと煙草が好きな「おっさん」なのでした。
立花早太郎 は、和菓子職人を目指す「みつ屋」社員。高身長、イケメンで、豊富な和菓子の知識を駆使した丁寧な接客。彼から購入したがる客も多いのですが、その中身はやはり別人のようで、かわいい物や恋バナにキャーキャー盛り上がってしまう「超乙女系男子」なのです。
そしてアンちゃんと同じアルバイトの桜井さん。彼女は普通の女子大生かと思いきや、元ヤンキー。無茶な要求をする客に凄みをきかせた応対をするなど、ときどきヤンキー時代の地が出てしまいます。
というように、風変わりな人ばかりが集まる「みつ屋」で働くアンちゃんも、今回ついに二十歳を迎えます。大人になったアンちゃんは和菓子にまつわるどんな事件に巻き込まれるのか。もちろん、美味しい和菓子の蘊蓄 もたっぷり。甘党の方はデパ地下に行って和菓子を買って帰りたくなること間違いなしです!
脳を働かせたいと思ったとき、何を飲みますか? やっぱりカフェインの入ったコーヒーやお茶で、という人が多いでしょうか。水を飲んで体をきれいにしてこそ脳は働くのよ、という人もいるようです。なかにはカルピスが記憶力・集中力にいいという説もあるようで、乳酸菌飲料に入っているペプチドが効くとか……(真偽は不明)。
では、お酒を飲むのはどうでしょう? アルコールは認知能力の低下を防ぐという研究報告もありますが……って、編集長、酒のプラス面の話になると急に前のめりにならないでくれませんか(顔が近いって)。じゃあ逆に、毎日お酒を飲むと脳の萎縮が早く進むという話もありますよ……あー、両耳塞いで聞こえない聞こえないしてるし。
飲んべえの編集長は放っておいて、61号から連載がスタートした、鯨統一郎さんの人気キャラクター「桜川東子 」が登場する〈銀幕のメッセージ〉。今回で第7弾となる人気シリーズです。
マスターの島が営むバー〈森へ抜ける道〉に今宵も集まるのは、常連客の山内と工藤(山内のヤ、工藤のクド、島のシと3人の名前の頭文字をとってヤクドシトリオと呼ばれてます)。元は客だったのがバーでアルバイトをすることになったOLの板東 いるか。そして、やはり常連客の桜川東子。
東子はメルヘンを専攻する美貌の大学院生で、とてつもない推理力の持ち主。さらには酒にめっぽう強く、飲めば飲むほど彼女の頭脳は冴え渡ります。
元刑事でいまは私立探偵をやっている工藤がいつもバーに未解決事件を持ち込み、みんなで「真相」へ辿り着くべく議論するのですが、日本酒やウイスキー、ワインやビールなどあらゆる酒を飲みながら、最後にすべての謎を解き明かすのが桜川東子の頭脳なのです。東子に限っては、酒は脳を活性化させているようですね。
そして童話、民話、ギリシャ神話、歌舞伎、オペラ、宝塚といったテーマが、シリーズごとに謎に絡んでくるという、もうひとつの楽しみもあります。今回は〈銀幕のメッセージ〉のタイトルの通り、映画の蘊蓄と事件が絡みますので、お酒を飲みながら映画の話をするのがお好きな方にはぴったりのシリーズです。
さて、第1話「帝国のゴジラ」では、派閥抗争が繰り広げられる会社で社長が殺害された事件が持ち込まれます。推理のお供の酒はテキーラ。「スター・ウォーズ」や「ゴジラ」などの映画話を絡ませて謎解きは進みますが、今回新たなキャラクターも登場します。千木良悟 と名乗る男性客は、実際の事件の真相を推理して外れたことがないと豪語します。はたして、東子と千木良の推理合戦の結末は!? ぜひグラスを片手にお読みください。
あれっ、編集長はどこにいったの? 今日はプレミアムフライデーだから、もう飲みにいった!? まったく、都合のいいことだけはちゃんと取り入れるんだから……。まあ、いいか。僕も編集部でちょっと一杯やっちゃおうっと。僕の好物の「鶏ささみの茹で汁」、これがたまらなく旨いんだなあ。
人間界には運命を司る女神がいます。ギリシア神話なら三人の女神たちですね。この三女神は、あなたたち一人一人に「運命の糸」を割り当て、紡ぎ、そして最後に断ち切るそうです(断ち切る……怖っ! 女神三人の打ち合わせはきっと「この人間、どーしちゃう?」などと、けたたましいものでしょうね……)。この「運命の糸」により劇的に変わってしまった人生を、人は偶然に翻弄されたと感じ「あー、運命の女神よ、あなたはなぜ無情にもこんな意地悪をなさるのか」と恨んだりします。
まあ大抵の恨み言は彼女たちも「で?」と鼻で笑うのでしょうけど、ときに糸がこんがらがったのか、想定を上回ってあまりにも偶然が重なってしまい、女神たちが「ちょっと待ってよ、それ私たち知らないし。聞いてないし。私たちのせいじゃないからね」と慌てるような事態が起きたりします。そう、起きるのです。
60号より始まった宮部みゆきさんの「女神の苦笑」シリーズは、さすがの運命の女神たちも苦笑するしかないような、あまりもの偶然の積み重なり、連鎖、連結に巻き込まれた人たちの物語です。
第一話「虹」は、夫とその家族に酷い仕打ちを受け続けてきた女性が息子とともに家を逃げ出し、新たな人生を始めようと母子シェルターの寮に入ります。その寮の共同洗濯機で息子の大切な運動着を洗うたびに、別の入寮者の洗濯物によってなぜか必ず色移りしてしまいます。避けようとしても、必ずそうなってしまうのです。
でも、この色移りが起きるたびに、母子の人生の転機となるようなできごとが次々と起きてゆき……。はたしてこれはただの偶然!? その先にはどんな未来が待ち受けている!?
女神さま、責任は問わないから分かっているなら早く先を教えて、と問いたくなるような展開。ページをめくる手が、猫なら肉球が止まらない、まさにページターナーの一編です!
矢吹駆(ヤブキ・カケル)。連続殺人事件の謎を見事に解きながらも、普通に考える「名探偵」のイメージがこれほど当てはまらない主人公はいないかもしれません。
その容姿は、肩まで伸びるウエーブのかかった黒髪、切れ長の大きな目、整った鼻筋、少し厚めの唇で「ツタンカーメンを思わせる東洋の貴公子のような」と形容されます。ちょっと濃いめのイケメンでしょうか。もっとも本人はそんなこと微塵も考えていないようですが。
問題はその推理方法。矢吹駆は「現象学的推理」という方法を用います。たとえば連続殺人が起こったとして、駆は事件を解決しようとはせず「一連の現象」として観察し捉えようとします(もう、この時点でよく分からなくなってきますが)。そして事件が終了した時点で「本質的直観」に基づいて真相を解き明かしてしまうのです(さらに分からなくなってしまいます!)。
ひとつの出来事(たとえば殺人)があれば、それについての論理的に妥当といえる結論は無数にある。その無数の結論のなかから「唯一の真理」を導くのが「本質的直観」である(by駆、まとめbyアラン)――いやもう、すごい! かっこいい!(ミステリー修行中の身ゆえ、こんな反応しかできない自分が情けないっス! 編集長、すみません)
そしてパリなどヨーロッパを中心とした舞台で、駆を事件へと誘うのが、とても行動的な女性ナディア・モガール。父親はパリ司法警察の警視ですから、かなり無茶なこともやっちゃいます。
もう一人の重要人物が、様々な場所で起きる事件の裏に常に存在し、闇から犯罪者を操る黒幕ニコライ・イリイチ。あらゆる手段を用い、テロリズムで世界を破滅に追い込もうとする駆の宿敵です。(暗がりから狙うところだけは、なんとなく親近感を覚えたりします)
三者の関係性だけでいえば、駆がホームズだとすると、ナディアがワトソン、イリイチがモリアーティ教授といったところでしょうか。はい、これは勉強しました。
この三人を軸に書かれてきた「矢吹駆シリーズ」は、『バイバイ、エンジェル』を第一作として、番外編的な作品も含めると十作を越えるシリーズとなっていますが(単行本未刊行のものも含む)、今回の『屍たちの昏い夜』でついにシリーズ最終作となります!
どのような殺人事件が待ち受けているのか。駆とイリイチの対決の行方は? ナディアとの関係は? シリーズを追いかけてきた方はもちろん、この作品で初めて読む方も、巻き起こる事件を楽しめること間違いなしです。
ちなみにぼくは魚がたくさんがあっても、いちばん美味しい一匹を本質的直観(におい)で選べますよ!
『クリーピー』(2012年2月刊)で第15回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビューした前川裕さん。同作品はクライムサスペンスの傑作です。東洛大学で犯罪心理学を教える大学教授の高倉は、友人の警視庁捜査一課の警部・野上の依頼で、8年前の日野市一家三人行方不明事件の捜査に協力していく。やがて高倉は得体の知れない隣人など事件の背後にある闇に気がつき、そのなかへと踏み込んでいくが……というストーリー。
タイトルの「クリーピー」は「(恐怖のために)ぞっと身の毛がよだつような;気味の悪い」という意味の英語です。初めて知りました。読み進めていくうちに人間の心の暗部に引き込まれていくようで、まさにぞっと身の毛がよだつデビュー作です(ちなみにぼくの場合、ぞっとすると背中の毛が逆立ちます)。
さらに『クリーピー』は黒沢清監督により映画化(2016年6月公開)され、「2016年 第90回キネマ旬報ベスト・テン」で日本映画部門8位にランクインしました(ちなみにランキング1位は『この世界の片隅に』、2位が『シン・ゴジラ』と邦画のあたり年でしたねえ)。また、続編ともいえる長編『クリーピー・スクリーチ』も刊行され、「クリーピー」ワールドはさらなる広がりを見せています。
そして「クリーピー」ワールドの次なる一手は、60号より連載がスタートした「犯罪心理学教授・高倉の事件ファイル」シリーズ。今度は高倉を主人公とした連作短編です。
過去のあらゆる犯罪(特に猟奇的殺人事件)に精通し、同時に犯人の心の襞に分け入ることもできる高倉。その能力をフルに活用し、ときに事件を未然に防ぎ、ときに犯人を罠にかけていきます。
ちなみに映画版で高倉役を務めたのは西島秀俊さん。そのため、ぼくは小説でも高倉は西島さんとしか思えなくなってしまいました。この際ですから、皆さんも西島さんをイメージしてかっこいい高倉を楽しんでください。さらにちなみに、映画版の高倉の妻・康子役は竹内結子さんでした。イケメンと美女。だめだ、もう康子も竹内さんとしか思えない……。
我が編集部のまわりの女性たち、「疲れた時に甘いものを食べると頭が働く」とかよく言っているのですが、本当でしょうか? 彼女たちは毎日のように「やばーい、脳みそにちょっと糖分入れなきゃ」とチョコレートの箱を開けるのですが……。
雑居ビルの四階にひっそりと佇む〈ブック・ステアリング〉は、珍しくて懐かしい書籍の山が内装を埋め尽くす一大ブック・ギャラリーでもあります。「ぼく」こと柚木崎渓(ゆきさきけい)は、このカフェの看板メニューのチョコレートドーナッツをこよなく愛し足繁く通う、迫扇 学園高等部の学生。同級生の本好き美少女、エミールこと日柳永美 もこの店の常連で、いつも一心不乱に本を読み耽っています。
あるとき店長の梶本が「ちょっとおもしろいことがあってね」と語り始めた事件。それは歴代の夫三人とその愛人が連続して殺害されている女に完璧と思えるアリバイがあり、そのアリバイを梶本が証明しているというものでした。
かつて梶本は約十二年間にわたって、ほぼ毎日〈ユモレスク〉という店のモーニングに通っていましたが、事件の被疑者・仲田有江も歴代の夫と愛人が殺された日の朝に〈ユモレスク〉でワインを飲んでおり、そのうちの二回は梶本が目撃者になっているというのです! 読書に埋没していたはずのエミールも、どうやら店長の話に興味をもったようで……。
長身で大食い、エキゾチックな顔立ちエミールと、華奢で控え目男子のユキサキ。店長の美味しい料理を食べながら二人が巡らす推理とは!?
チョコの箱を開けた編集部の女性たち、観察しているといつの間にか箱は空っぽに。それって「ちょっと」なの?……って、すみません、鼻にチョコを押しつけないでくれますか! ぼく、チョコは食べませんから!
巫女と聞いただけで、我が編集長はいつになく落ち着かなくなります。なぜでしょう……。
天袮涼さんが描く巫女探偵・久遠雫< は超絶美人、白衣に緋袴(巫女ですから当然ですが)、腰まである黒髪を一本に束ね、背筋を真っ直ぐ伸ばした立ち居は凜々しく、参拝者の前では微笑みを絶やしません。そんな雫の表情は参拝者がいなくなると一変、双眸は氷塊のようになり、誰が呼んだかあだ名は「氷の巫女」。
編集長、この目が怖くて落ち着かないんですか?
雫がお務めするのは横浜で源義経を祀る源神社。そしてそこに住み込みで働くことになったのが坂本壮馬 。実は壮馬の兄・栄達 は源神社の一人娘の婿となり、神職に就いていたのです。大学をやめてふらふらしていた壮馬を栄達が招いたというわけ。壮馬の教育係は、十七歳と年下ながら神社では先輩の雫。彼女の氷の視線に睨まれながら日々奮闘する壮馬でしたが……。
あるとき、源神社が管轄する阿波野神社で心霊現象が起きているとネット上で話題となり、近隣住民から夜中に若者が集まって迷惑しているとクレームが入ります。雫と壮馬が心霊現象を解明する役目を担いますが、雫の鋭い視線は心霊現象の奥に別の問題が潜んでいることに気づき……。
クールビューティにして冷徹な推理力の持ち主・雫と、なにをやってもうまくいかない男・壮馬のコンビが、神社に巻き起こる謎を解いていくシリーズ。神社の蘊蓄もたっぷり詰まっています!
ちなみに神社というと「お稲荷様=狐=イヌ科」を思い浮かべる人が多いのでしょうね。でも、猫を祀った神社も全国には結構あるんですよ。たとえば東京では浅草の今戸神社が有名です。招き猫発祥の地といわれていますし、ぼくの白毛の仲間も住んでいて、この白猫を見かけたら幸運が訪れるとか。そうそう最近ではなぜか縁結びに神様にもなってるようで。
それにしても編集長、なんで巫女と聞くとそわそわするんですか?
臓器移植をした人の嗜好や性格が以前とは変わってしまう「記憶転移」という話があります。もちろん科学的にはあくまで未解明の現象ですが、小説や映画、マンガなどでこのテーマは繰り返し扱われてきました。脳ではなく、臓器に記憶が宿る……どこまでも不思議な話です。
さらに話を進めて、もし物に記憶が残るとしたら……。
「私」こと、篠垣早紀 は、三年間付き合った彼氏に突然別れを告げられます。降りたこともない駅で降り、路地裏の飲み屋街の小さな店をはしごし泥酔する早紀。タクシーを拾おうとしてふと目にとまったバー《オン・ザ・キャメル》に、つい入ってしまいます(編集長もよく「もう帰る」と言いつつ居酒屋に引っかかってますねえ)。
そのバーで出会ったホストのような格好の男は、早紀のスマホを借り受けると店内のラクダの置物にまたがり眠ってしまいます(まさにオン・ザ・キャメル)。そして三十分後に目覚めた男は、その日、早紀が行った飲み屋、その店のメニューから他の客の会話まですべて正確に言い当てるのです!
「俺は今、君のスマホになっていたんだ」。夢の中で早紀のスマホになった男は、彼氏からの別れの言葉を聞き、はしご酒のすべてをダイジェスト版で見てきたと語ります。
「どういうわけか、俺にはそんな変な力が備わってしまった。どんな物でもいいってわけじゃないんだ。人に大事にされている物、近い過去、人に触れられていた物でなければならない。夢の中で、ただ無抵抗な物になり、映像を見せられる」
その男との出会いが、早紀にとって新しい扉を開くことに。なぜなら早紀自身にもかつて同じような体験をした記憶があったから……。
青柳碧人さんの「二人の推理は夢見がち となりの人間国宝」は、こんな大胆な設定のうえに謎を提示してくる長編ミステリーです。そもそも自分の“記憶”は本当にあったことなのか、100パーセントの自信をもっていえる人はいないは。そんな心の隙に、するりと入り込んでくる小説なのです。一度入ってきたら、青柳ワールドはどこまでも深く潜り込んできますので、お気をつけください。
そういえばぼくは、ときどき編集長の顔を忘れてしまうのですが……。ま、いっか。別にあの人は餌をくれるわけじゃないしね。
2013年11月、南アフリカ共和国の洞窟で骨が発見され、世界中の研究者達を驚かせた新種のヒト属「ホモ・ナレディ」。少なくとも15体分になるといわれる骨は集団埋葬された可能性があり、脳が現代のヒトの三分の一のサイズしかないのに、死を理解する文化を持ち合わせていたのではと議論となっているそうです……というのは実話です。骨の年代がまだ不明で人類の系統樹のどこに入るかはまだ分からず、未だに予断を許さない状況のようですね。
鳥飼否宇さんが58号より連載を始めた「隠蔽人類」シリーズも、実は似たような状況が展開されています。と言っても人類史のミッシングリンクとなる骨が発見されたのではなく、なんと現代に生き延びている新種の人類が発見されたことから物語は始まるのです!
カヌーでアマゾン川の全支流を単身で漕破するという冒険を敢行中に、ペルーの川で濁流に呑まれて命を落としたアメリカの冒険家。彼はタブレット端末に詳細な日記と写真を残していたましたが、彼の妻がそこに驚くべき記述を見つけるのです。アマゾン川のとある支流のさらに枝分かれ、小さな流れの先に総勢五十人ほどでひっそりと暮らす未接触民族の集落があり、冒険家はその「キズキ族」を「これまでに出会ったどんな民族とも違う」特徴を持っていると記していました。そこで日本の人類学者など五人の調査団が、はるかキズキ族の集落を求めアマゾン川を遡っていきます。目的はキズキ族のDNAサンプルを入手し、新種の人類であることを証明すること。しかし、それぞれの野望が渦巻く調査団はお互いに牽制し合い、そしてついにたどり着いた集落で調査団の一人が何者かに殺されるという事件が起きて……。
特殊設定や人間以外の生物が関係してくる世界でのミステリーは、鳥飼さんのお得意とするところ。今回も二転三転、毎回どんでん返しが待ち受けていますよ。
それにしても人間は自分のルーツを辿ることがお好きなようで、ミッシングリンクの発見にはいつも目の色を変えますねえ。
ぼくたち猫科は遙か太古の昔の「プセウダエルルス」というご先祖様以来、形態はほとんど変わっていませんので落ち着いたものです。あっ、「目の色」は意思に関係なく明かり次第で変わってしまいますけどね。
熊野那智大社や鞍馬の火祭、京都大文字五山送り火や御火焚(おひたき)、北口本宮冨士浅間神社と諏訪神社にも吉田の火祭がありますし、さらには九州地方の鬼火など、日本全国で季節を問わず、いわゆる「火祭り」が行われています。それだけ神霊の送迎や清め、魔よけなど、人間は燃える炎の力を信じているということですね。
58号より森晶麿さんが連載をスタートした「飛んで火に入る三人」も、まさに燃える炎のパワーをめぐるミステリーです。
露木洋伍(つゆきようご)、職業は「予現者」(「予言者」ではなく「予現者」)。見た目は美青年ながら言動は軽薄。彼は燃え上がる炎のイメージを「観る」ことで、火災が起きる現場を言い当てることができます。
凪田緒ノ帆(なぎたおのほ)、職業は現象学者。かつて学会で外出していた日に自宅の火災によって夫を失ってしまいました。
海老野ホムラ(えびのほむら)、職業は消防士。かつてアフガニスタンを旅行中に正体不明のテロリスト集団に襲われ、恋人のメグミを拉致されます。身体を拘束されたホムラは柵で囲われ火を放たれましたが、火がロープを焼き切り九死に一生を得るという、悲惨な経験をしました。
この三人を結びつけるのは「炎」。露木は、最近起こった火災の被害者がいずれもスマホの画面を同じ女性の画像にしていることに気づきます。その画像はメグミによく似た女性で、さらに調べると、画像から〈貴婦jin俱楽部〉という出会い系サイトにたどり着くのです。はたしてメグミは生存しているのか? 炎に導かれるように、三人は真相を求めて旅に出ますが……。
燃え上がる炎には人を落ち着かせる力もありますが(暖炉の前など、ぼくも大好き)、ときに人を狂わせる力もあるようですね。本シリーズは炎のよって運命が変わってしまった人たちを巡るミステリーです。
ちなみにぼくの一族にも「猫股(又)の火」なる火の玉と化す怪猫伝説が残っていますが、そうなるには尻尾が二股に分かれるほど長生きしないとね。
シアトル・スタイルのカフェでそれなりに美味しいコーヒーを飲むのは気楽でいい。スマホをいじるのにはちょうどいいし。でも黄金期のミステリーを再読するなら、シアトル系はちょっとね。やはり古き良き昭和の薫り漂う喫茶店に文庫本を持って行きたいものだ……とは編集長の言。編集長、その後もなにやら遠い目をして、昔通ったお茶の水のジャズ喫茶の女子大生店員がかわいくて、いつもカウンターに座って彼女のことを……なんてぶつぶつ言ってたが、中身がよく分からない。ちょうど日が差して眠気を誘う暖かさだったし。
でも井上雅彦さんの「珈琲城とキネマと事件」を読んで、編集長の昔話……いやミステリーの読み方の指導がちょっと分かった気がしました。
ホテルの一室で、男性の変死体が発見されます。喉は鋭い刃物で執拗に剔ぐられたかのようで、頭蓋骨や頸部など複数の骨折も見られる。犯人が逃走できたのは床から8メートルの高さにある天窓のみ。さらに外には、雪のうえにイヌ科とおぼしき大型動物の足跡が……。被害者はかつて、絶滅したはずのエゾオオカミの生存を検証する番組を制作したプロデューサー。犯人は狼男なのか……。
刑事の春夫は、同窓生で新聞社文化部の記者・秋乃に紹介され、ある喫茶店を訪れます。鬱蒼と蔦の絡まる西洋館の〔喫茶・薔薇の蕾〕。その扉を開けると、闇の中に珈琲を焙煎する深い芳香が。聴こえてくるのは古楽の響き。ここは静かな闇と美味なる珈琲――そしてなによりも謎解きの好きな常連たちが集う一種の秘密クラブだったのです。
ゲストは常連たちの前で、謎に溢れる自らの体験を話します。すると、それぞれの得意分野のニックネームがついた常連たちが、次々の推理を披露をするのがお約束。その日も春男の語る「狼男殺人事件」に、〈民俗学者〉、〈記号論〉、〈グッズ屋〉、〈怪奇俳優〉たちがそれぞれ論理的な解答を語り始めます。最後は〈映写技師〉が上映する古き良き名画のなかに謎を解く鍵が……。
これまで珈琲の濃い香りはぼくの鼻にはちょっと強過ぎましたが、この小説を読んで好きになれそうな気がしてきましたよ、編集長。