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ミステリー作家が大勢参加する、本格ミステリ大賞の「贈呈式パーティ」と「受賞記念座談会」のイベントに行ってきました。

2017.06.24 【イベント】本格ミステリ大賞 贈呈式パーティ

6月24日(土)、東京・神楽坂の日本出版クラブ会館において、第17回本格ミステリ大賞の贈呈式・祝賀会のイベントが開かれました。

左から、喜国雅彦さん、竹本健治さん、国樹由香さん
小説部門受賞

受賞者 竹本健治さん略歴: 本格ミステリ作家。1954年兵庫県生まれ。大学在学中に探偵小説専門誌「幻影城」に『匣の中の失楽』を連載しデビュー。同書は78年に刊行。以後、「ゲーム三部作」シリーズ、「ウロボロス」シリーズ、「パーミリオンのネコ」シリーズなど、ミステリ・SF・ホラーと幅広く執筆。『涙香迷宮』は、『このミステリーがすごい!2017年版』国内編第1位になる。現在「ジャーロ」で「闇に用いる力学 青嵐篇」を好評連載中。

受賞作品 『涙香迷宮』概要: 明治の傑物・黒岩涙香が残した最高難度の暗号。それに挑むのはIQ208の天才囲碁棋士・牧場智久。いろは四十八文字を一度ずつ、すべて使って作る日本語の技巧と遊戯性を極めた「いろは歌」四十八首が涙香からの挑戦状! 智久はこの謎を解けるか!? 全選評は「ジャーロ」No.60 に掲載中!

評論部門受賞

受賞者 喜国雅彦さん略歴: 漫画家、装画家、音楽家、本棚探偵…他。1958年香川県生まれ。81年「週刊ヤングジャンプ」(集英社)に「ふぉ~てぃん」が掲載されデビュー。97年に「第4回みうらじゅん親友漫画賞」受賞。2015年に『本棚探偵最後の挨拶』で「第68回日本推理作家協会賞〈評論その他の部門〉」受賞。東京マラソンにも出場したランナー。国樹由香さんとはご夫婦。

受賞者 国樹由香さん略歴: 漫画家。『気絶するほど悩ましい』(ソニー・マガジンズ)でデビュー。少女漫画の他、『こたくんとおひるね』『しばちゃん。』『犬と一緒に乗る舟』など犬漫画も手がけている。犬、ミステリ&ホラー小説、ハードロック・ヘヴィメタル、サッカー好き。極真空手の有段者でもある。

受賞作品 『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』 概要: クイーン、クリスティ、クロフツ、カー……古典と呼ばれる本格ミステリ作品は決して古びてなどいない! 漫画家で“本棚探偵”としても知られる著者がミステリ誌「メフィスト」で9年間にわたって連載した、「今まで見たことのない」本格ミステリ・ブックガイド。喜国さんの日常をレポートしたエッセイ漫画「国樹由香の本棚探偵の日常」も収録。 全選評は「ジャーロ」No.60 に掲載中!

受賞の挨拶で竹本さんは、『涙香迷宮』のなかに多数登場する「いろは歌」にちなんで、「いろは歌で詠む受賞の言葉」を用意されていました。

いろは歌とは、すべての仮名を重複させずに一度ずつだけ使って作られた歌のことで、七五調の形式となっています。
皆さんもかつて学校で、

「色はにほへど 散りぬるを 我が世たれぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず」

(いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす」

という歌を習ったことがあると思いますが、まさにこれが「いろは歌」です。
古くから「いろは四十七字」として知られていますが、現代ではこれに「ん」を加えて「いろは四十八字」とすることが多いようです。
この「色はにほへど……」と同じように、「いろは四十八字」を使った様々な歌が受賞作(『涙香迷宮』)中に出てきます(さらに、それらが暗号になっているのです!)。
竹本さんの作った「いろは歌」はツイッターで読むことができます。ご興味のある方はぜひ。
https://irh48kiz48.jimdo.com/

さらに竹本さんは『涙香迷宮』のなかで解かれないまま残されている謎を、「問題」として会場の皆さんに出題。答えが分かった人は、祝賀会終了までに竹本さんの耳元でそっと解答を囁くという趣向も用意されていました。

本格ミステリの「お約束」として、ネタバレは御法度。解答者は他の人に聞かれないよう耳元で囁かなければいけませんし、最終的に「正解」が発表されることもありません。ただ「正解者」だけが発表されます。
本格ミステリ作家や評論家が多数集まる会場で、正解にたどり着いたのはたった二人。一人は女性編集者で、もう一人は本格ミステリ作家クラブ会長・法月綸太郎さん(さすがです)。

 

正解者1名に竹本さんから「受賞の言葉いろは歌」が書かれたパネルがプレゼントされるということで、お二人は壇上でジャンケン。見事、女性編集者がパネルを獲得しました(「法月さん、レディファーストで!」と声が飛ぶ会場の空気を読んでジャンケンに負けることができ、ほっとする、女性に優しい法月さんでした)。

受賞者である竹本さんが、今度は賞品を贈呈する側にまわり、賑やかに祝賀会は終了しました。

2017.06.25 【イベント】本格ミステリ大賞受賞記念トークショー&サイン会

左から、竹本健治さん、喜国雅彦さん、国樹由香さん、太田忠司さん、鳥飼否宇さん

贈呈式の翌日は、毎年恒例の本格ミステリ大賞受賞記念トークショー&サイン会。
会場の書店は毎年変わりますが、今年は6月25日(日)に、東京の三省堂書店神保町本店で開かれました。
一般参加のお客様が座るなか登壇したのは5人。

受賞者   竹本健治さん、喜国雅彦さん、国樹由香さん
推薦者   太田忠司さん
司 会   鳥飼否宇さん

トークショーは受賞者の喜びの言葉から始まり、最初は小説部門の竹本健治さん。

  • 竹本
  • 『涙香迷宮』はツイッターでいろは歌を作りだしてから始まったのですが、作品の評価は五十首ほど入っているいろは歌に対しての部分が大きいと思います。ただ、自分としてはとても楽しんで作った歌ですので、そこを評価されるのはちょっとくすぐったい感じです。これほど趣味が実益に結びついた小説ってないのではと、友達に言われています。

続いて評論・研究部門の喜国雅彦さんは

  • 喜国
  • 好きな海外ミステリを読んで感想を書いたら賞をいただけたので、こんな楽でいいのかと思いました(笑)。でも自分の好きなことをやり続けていたら絶対いつかいいことがある、たとえ失敗しても後悔しないと、竹本さんとも話していました。

さらに国樹由香さんが

  • 国樹
  • 私のパートは喜国さんとうちの犬を観察した日記のようなものなので、やはりただ好きなものを描いていただけなのですが、そもそも1回だけの予定だった漫画を辻村深月さんに絶賛していただいて連載することができました。ほんとうに嬉しいです。

竹本さんは前日の贈呈式に続いて、「ミステリいろは歌」パネルを用意されていました。

今回のトークショーでは『涙香迷宮』の推薦者としても登壇していた喜国さんが

  • 喜国
  • 竹本さんはいつも上京するたびにうち(喜国家)をホテル代わりにしているんです。一年で何十日いるんだ、というぐらい。大賞の開票式の前日も泊まっていたんですが、両作ともノミネートされて、どちらかが落ちると気まずいよねと言っていた。でも、“無冠の帝王”の竹本さんは“もう賞はいらないらしいよ”と言われていたし、僕らは漫画家だからミステリの賞をもらう機会は少ないので、その三人がもらったらオモロイだろうとも話していました。

と、応援しているとは思いにくい出だしで始まり、さらに

  • 喜国
  • みなさんはいろは歌を評価しますが、僕は涙香に興味があった。涙香がテーマということで、竹本さんまた売れないもの書いてるな、これはもう僕が読まなくてはと思っていました。僕自身も言葉遊びが好きで、ただでさえ本格ミステリは退屈なのに、そのなかでいちばん退屈な暗号をやるなんて、これは家族同然になった僕が応援しないと、と思った。

そんな“推薦の弁”に、竹本さんは「うんうん」「そうそう」と隣りで飄々と頷き続けるのみ。

 こんな展開で会場に笑い絶えないトークショーは1時間にわたって続きました。

トークの後は「お宝抽選会」。これもいまや恒例で、作家や出版社が持ち寄ったミステリにまつわるお宝が、抽選のうえプレゼントされます。


さらにイベントは続き、お宝抽選会のあとは本格ミステリ作家がずらりと並ぶサイン会に。
トークショーに出演した5人以外にも、芦辺拓、綾辻行人、大崎梢、北村薫、千澤のり子、辻真先、西澤保彦、法月綸太郎、東川篤哉、麻耶雄嵩、皆川博子(敬称略・五十音順)のみなさんが出席。16人によるサイン会が開かれました。

これだけの人数のミステリ作家が一堂に会してのサイン会はそうそうあるものではなく、お客様も一人でも多くのサインをもらおうと、こちらの列に並んではすぐ別の列に移ることを繰り返し、会場の温度もぐんぐん上昇していました。

予定時間をかなりオーバーしながら、なんとかサイン会も終了。「本格ミステリの最も熱い1日」は盛り上がりのうちに全イベントが終了となりました。

最後に挨拶にたった法月綸太郎会長(この日が会長職最後の日でした)は、

「集まってくださった読者のみなさんに、ちゃんと無事に持って帰れるのだろうかと心配になるぐらいたくさんの本を買っていただきまして、作家は自分の本をこれだけ買っていただく場面をなかなか見られないので、本当に嬉しい場でした。
読者の方と作家と書店と出版社を結ぶ場を作りたいと思って始まったこのイベントも今年で17回。みんなにとって得難い機会ですし、続けてこられてよかったと思います」

と締めくくりました。